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★★★ 銀河鉄道の夜 ★★★

1 :おたく、名無しさん?:02/05/01 15:20
「ではみなさんは、そういうふうに川だと云(い)われたり、乳の流れたあとだと
云われたりしていたこのぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか。」先
生は、黒板に吊(つる)した大きな黒い星座の図の、上から下へ白くけぶった銀河
帯のようなところを指(さ)しながら、みんなに問(とい)をかけました。

2 :おたく、名無しさん?:02/05/01 15:21
 カムパネルラが手をあげました。それから四五人手をあげました。ジョバンニも
手をあげようとして、急いでそのままやめました。たしかにあれがみんな星だと、
いつか雑誌で読んだのでしたが、このごろはジョバンニはまるで毎日教室でもねむ
く、本を読むひまも読む本もないので、なんだかどんなこともよくわからないとい
う気持ちがするのでした。

3 :おたく、名無しさん?:02/05/01 15:22
 ところが先生は早くもそれを見附(みつ)けたのでした。
「ジョバンニさん。あなたはわかっているのでしょう。」
 ジョバンニは勢(いきおい)よく立ちあがりましたが、立って見るともうはっき
りとそれを答えることができないのでした。ザネリが前の席からふりかえって、ジョ
バンニを見てくすっとわらいました。ジョバンニはもうどぎまぎしてまっ赤になっ
てしまいました。先生がまた云いました。
「大きな望遠鏡で銀河をよっく調べると銀河は大体何でしょう。」
 やっぱり星だとジョバンニは思いましたがこんどもすぐに答えることができませ
んでした。

4 :おたく、名無しさん?:02/05/01 15:22
 先生はしばらく困ったようすでしたが、眼(め)をカムパネルラの方へ向けて、
「ではカムパネルラさん。」と名指しました。するとあんなに元気に手をあげたカ
ムパネルラが、やはりもじもじ立ち上ったままやはり答えができませんでした。
 先生は意外なようにしばらくじっとカムパネルラを見ていましたが、急いで「で
は。よし。」と云いながら、自分で星図を指(さ)しました。
「このぼんやりと白い銀河を大きないい望遠鏡で見ますと、もうたくさんの小さな
星に見えるのです。ジョバンニさんそうでしょう。」

5 :おたく、名無しさん?:02/05/01 15:23
 ジョバンニはまっ赤になってうなずきました。けれどもいつかジョバンニの眼の
なかには涙(なみだ)がいっぱいになりました。そうだ僕(ぼく)は知っていたの
だ、勿論(もちろん)カムパネルラも知っている、それはいつかカムパネルラのお
父さんの博士のうちでカムパネルラといっしょに読んだ雑誌のなかにあったのだ。
それどこでなくカムパネルラは、その雑誌を読むと、すぐお父さんの書斎(しょさ
い)から巨(おお)きな本をもってきて、ぎんがというところをひろげ、まっ黒な
頁(ページ)いっぱいに白い点々のある美しい写真を二人でいつまでも見たのでし
た。それをカムパネルラが忘れる筈(はず)もなかったのに、すぐに返事をしなかっ
たのは、このごろぼくが、朝にも午后にも仕事がつらく、学校に出てももうみんな
ともはきはき遊ばず、カムパネルラともあんまり物を云わないようになったので、
カムパネルラがそれを知って気の毒がってわざと返事をしなかったのだ、そう考え
るとたまらないほど、じぶんもカムパネルラもあわれなような気がするのでした。

6 :おたく、名無しさん?:02/05/01 15:23
 先生はまた云いました。
「ですからもしこの天(あま)の川(がわ)がほんとうに川だと考えるなら、その
一つ一つの小さな星はみんなその川のそこの砂や砂利(じゃり)の粒(つぶ)にも
あたるわけです。またこれを巨きな乳の流れと考えるならもっと天の川とよく似て
います。つまりその星はみな、乳のなかにまるで細かにうかんでいる脂油(しゆ)
の球にもあたるのです。そんなら何がその川の水にあたるかと云いますと、それは
真空という光をある速さで伝えるもので、太陽や地球もやっぱりそのなかに浮(う
か)んでいるのです。つまりは私どもも天の川の水のなかに棲(す)んでいるわけ
です。そしてその天の川の水のなかから四方を見ると、ちょうど水が深いほど青く
見えるように、天の川の底の深く遠いところほど星がたくさん集って見えしたがっ
て白くぼんやり見えるのです。この模型をごらんなさい。」

7 :おたく、名無しさん?:02/05/01 15:24
 先生は中にたくさん光る砂のつぶの入った大きな両面の凸(とつ)レンズを指し
ました。
「天の川の形はちょうどこんななのです。このいちいちの光るつぶがみんな私ども
の太陽と同じようにじぶんで光っている星だと考えます。私どもの太陽がこのほぼ
中ごろにあって地球がそのすぐ近くにあるとします。みなさんは夜にこのまん中に
立ってこのレンズの中を見まわすとしてごらんなさい。こっちの方はレンズが薄(う
す)いのでわずかの光る粒即(すなわ)ち星しか見えないのでしょう。こっちやこっ
ちの方はガラスが厚いので、光る粒即ち星がたくさん見えその遠いのはぼうっと白
く見えるというこれがつまり今日の銀河の説なのです。そんならこのレンズの大き
さがどれ位あるかまたその中のさまざまの星についてはもう時間ですからこの次の
理科の時間にお話します。では今日はその銀河のお祭なのですからみなさんは外へ
でてよくそらをごらんなさい。ではここまでです。本やノートをおしまいなさい。」

8 :おたく、名無しさん?:02/05/01 15:30
 そして教室中はしばらく机(つくえ)の蓋(ふた)をあけたりしめたり本を重ね
たりする音がいっぱいでしたがまもなくみんなはきちんと立って礼をすると教室を
出ました。 

9 :おたく、名無しさん?:02/05/01 15:46
  二、活版所

10 :おたく、名無しさん?:02/05/01 16:29
 ジョバンニが学校の門を出るとき、同じ組の七八人は家へ帰らずカムパネルラを
まん中にして校庭の隅(すみ)の桜(さくら)の木のところに集まっていました。
それはこんやの星祭に青いあかりをこしらえて川へ流す烏瓜(からすうり)を取り
に行く相談らしかったのです。

11 :おたく、名無しさん?:02/05/01 16:29
 けれどもジョバンニは手を大きく振(ふ)ってどしどし学校の門を出て来ました。
すると町の家々ではこんやの銀河の祭りにいちいの葉の玉をつるしたりひのきの枝
(えだ)にあかりをつけたりいろいろ仕度(したく)をしているのでした。

12 :おたく、名無しさん?:02/05/01 16:30
 家へは帰らずジョバンニが町を三つ曲ってある大きな活版処にはいってすぐ入口
の計算台に居ただぶだぶの白いシャツを着た人におじぎをしてジョバンニは靴(く
つ)をぬいで上りますと、突(つ)き当りの大きな扉(と)をあけました。中には
まだ昼なのに電燈がついてたくさんの輪転器がばたりばたりとまわり、きれで頭を
しばったりラムプシェードをかけたりした人たちが、何か歌うように読んだり数え
たりしながらたくさん働いて居(お)りました。

13 :おたく、名無しさん?:02/05/01 16:30
 ジョバンニはすぐ入口から三番目の高い卓子(テーブル)に座(すわ)った人の
所へ行っておじぎをしました。その人はしばらく棚(たな)をさがしてから、
「これだけ拾って行けるかね。」と云いながら、一枚の紙切れを渡(わた)しまし
た。ジョバンニはその人の卓子の足もとから一つの小さな平たい函(はこ)をとり
だして向うの電燈のたくさんついた、たてかけてある壁(かべ)の隅の所へしゃが
み込(こ)むと小さなピンセットでまるで粟粒(あわつぶ)ぐらいの活字を次から
次と拾いはじめました。青い胸あてをした人がジョバンニのうしろを通りながら、
「よう、虫めがね君、お早う。」と云いますと、近くの四五人の人たちが声もたて
ずこっちも向かずに冷くわらいました。

14 :おたく、名無しさん?:02/05/01 16:31
 ジョバンニは何べんも眼を拭(ぬぐ)いながら活字をだんだんひろいました。
 六時がうってしばらくたったころ、ジョバンニは拾った活字をいっぱいに入れた
平たい箱(はこ)をもういちど手にもった紙きれと引き合せてから、さっきの卓子
の人へ持って来ました。その人は黙(だま)ってそれを受け取って微(かす)かに
うなずきました。

15 :おたく、名無しさん?:02/05/01 16:31
 ジョバンニはおじぎをすると扉をあけてさっきの計算台のところに来ました。す
るとさっきの白服を着た人がやっぱりだまって小さな銀貨を一つジョバンニに渡し
ました。ジョバンニは俄(にわ)かに顔いろがよくなって威勢(いせい)よくおじ
ぎをすると台の下に置いた鞄(かばん)をもっておもてへ飛びだしました。それか
ら元気よく口笛(くちぶえ)を吹(ふ)きながらパン屋へ寄ってパンの塊(かたま
り)を一つと角砂糖を一袋買いますと一目散(いちもくさん)に走りだしました。

16 :おたく、名無しさん?:02/05/01 16:58
 三、家

17 :おたく、名無しさん?:02/05/01 16:59
 ジョバンニが勢(いきおい)よく帰って来たのは、ある裏町の小さな家でした。
その三つならんだ入口の一番左側には空箱に紫(むらさき)いろのケールやアスパ
ラガスが植えてあって小さな二つの窓には日覆(ひおお)いが下りたままになって
いました。
「お母(っか)さん。いま帰ったよ。工合(ぐあい)悪くなかったの。」ジョバン
ニは靴をぬぎながら云いました。

18 :おたく、名無しさん?:02/05/01 17:00
「ああ、ジョバンニ、お仕事がひどかったろう。今日は涼(すず)しくてね。わた
しはずうっと工合がいいよ。」
 ジョバンニは玄関(げんかん)を上って行きますとジョバンニのお母さんがすぐ
入口の室(へや)に白い巾(きれ)を被(かぶ)って寝(やす)んでいたのでした。
ジョバンニは窓をあけました。
「お母さん。今日は角砂糖を買ってきたよ。牛乳に入れてあげようと思って。」
「ああ、お前さきにおあがり。あたしはまだほしくないんだから。」
「お母さん。姉さんはいつ帰ったの。」
「ああ三時ころ帰ったよ。みんなそこらをしてくれてね。」
「お母さんの牛乳は来ていないんだろうか。」
「来なかったろうかねえ。」
「ぼく行ってとって来よう。」
「あああたしはゆっくりでいいんだからお前さきにおあがり、姉さんがね、トマト
で何かこしらえてそこへ置いて行ったよ。」
「ではぼくたべよう。」
 ジョバンニは窓のところからトマトの皿(さら)をとってパンといっしょにしば
らくむしゃむしゃたべました。

19 :おたく、名無しさん?:02/05/01 17:00
「ねえお母さん。ぼくお父さんはきっと間もなく帰ってくると思うよ。」
「あああたしもそう思う。けれどもおまえはどうしてそう思うの。」
「だって今朝の新聞に今年は北の方の漁は大へんよかったと書いてあったよ。」
「ああだけどねえ、お父さんは漁へ出ていないかもしれない。」
「きっと出ているよ。お父さんが監獄(かんごく)へ入るようなそんな悪いことを
した筈(はず)がないんだ。この前お父さんが持ってきて学校へ寄贈(きぞう)し
た巨(おお)きな蟹(かに)の甲(こう)らだのとなかいの角だの今だってみんな
標本室にあるんだ。六年生なんか授業のとき先生がかわるがわる教室へ持って行く
よ。一昨年修学旅行で〔以下数文字分空白〕

20 :おたく、名無しさん?:02/05/01 17:01
「お父さんはこの次はおまえにラッコの上着をもってくるといったねえ。」
「みんながぼくにあうとそれを云うよ。ひやかすように云うんだ。」
「おまえに悪口を云うの。」
「うん、けれどもカムパネルラなんか決して云わない。カムパネルラはみんながそ
んなことを云うときは気の毒そうにしているよ。」
「あの人はうちのお父さんとはちょうどおまえたちのように小さいときからのお友
達だったそうだよ。」

21 :おたく、名無しさん?:02/05/01 17:02
「ああだからお父さんはぼくをつれてカムパネルラのうちへもつれて行ったよ。あ
のころはよかったなあ。ぼくは学校から帰る途中(とちゅう)たびたびカムパネル
ラのうちに寄った。カムパネルラのうちにはアルコールラムプで走る汽車があった
んだ。レールを七つ組み合せると円くなってそれに電柱や信号標もついていて信号
標のあかりは汽車が通るときだけ青くなるようになっていたんだ。いつかアルコー
ルがなくなったとき石油をつかったら、罐(かま)がすっかり煤(すす)けたよ。」
「そうかねえ。」
「いまも毎朝新聞をまわしに行くよ。けれどもいつでも家中まだしぃんとしている
からな。」

22 :おたく、名無しさん?:02/05/01 18:31
「早いからねえ。」
「ザウエルという犬がいるよ。しっぽがまるで箒(ほうき)のようだ。ぼくが行く
と鼻を鳴らしてついてくるよ。ずうっと町の角までついてくる。もっとついてくる
こともあるよ。今夜はみんなで烏瓜(からすうり)のあかりを川へながしに行くん
だって。きっと犬もついて行くよ。」
「そうだ。今晩は銀河のお祭だねえ。」
「うん。ぼく牛乳をとりながら見てくるよ。」
「ああ行っておいで。川へははいらないでね。」
「ああぼく岸から見るだけなんだ。一時間で行ってくるよ。」
「もっと遊んでおいで。カムパネルラさんと一緒(いっしょ)なら心配はないから。」
「ああきっと一緒だよ。お母さん、窓をしめて置こうか。」
「ああ、どうか。もう涼しいからね」

23 :おたく、名無しさん?:02/05/01 18:31
 ジョバンニは立って窓をしめお皿やパンの袋を片附(かたづ)けると勢よく靴を
はいて
「では一時間半で帰ってくるよ。」と云いながら暗い戸口を出ました。

24 :おたく、名無しさん?:02/05/01 18:32
 四、ケンタウル祭の夜

25 :おたく、名無しさん?:02/05/01 18:32
 ジョバンニは、口笛を吹いているようなさびしい口付きで、檜(ひのき)のまっ
黒にならんだ町の坂を下りて来たのでした。

26 :おたく、名無しさん?:02/05/01 18:32
 坂の下に大きな一つの街燈が、青白く立派に光って立っていました。ジョバンニ
が、どんどん電燈の方へ下りて行きますと、いままでばけもののように、長くぼん
やり、うしろへ引いていたジョバンニの影(かげ)ぼうしは、だんだん濃(こ)く
黒くはっきりなって、足をあげたり手を振(ふ)ったり、ジョバンニの横の方へま
わって来るのでした。

27 :おたく、名無しさん?:02/05/01 18:33
(ぼくは立派な機関車だ。ここは勾配(こうばい)だから速いぞ。ぼくはいまその
電燈を通り越(こ)す。そうら、こんどはぼくの影法師はコムパスだ。あんなにく
るっとまわって、前の方へ来た。)
とジョバンニが思いながら、大股(おおまた)にその街燈の下を通り過ぎたとき、
いきなりひるまのザネリが、新らしいえりの尖(とが)ったシャツを着て電燈の向
う側の暗い小路(こうじ)から出て来て、ひらっとジョバンニとすれちがいました。

28 :おたく、名無しさん?:02/05/02 08:56
「ザネリ、烏瓜ながしに行くの。」ジョバンニがまだそう云ってしまわないうちに、
「ジョバンニ、お父さんから、らっこの上着が来るよ。」その子が投げつけるよう
にうしろから叫(さけ)びました。
 ジョバンニは、ばっと胸がつめたくなり、そこら中きぃんと鳴るように思いまし
た。
「何だい。ザネリ。」とジョバンニは高く叫び返しましたがもうザネリは向うのひ
ばの植った家の中へはいっていました。

29 :おたく、名無しさん?:02/05/02 08:57
「ザネリはどうしてぼくがなんにもしないのにあんなことを云うのだろう。走ると
きはまるで鼠(ねずみ)のようなくせに。ぼくがなんにもしないのにあんなことを
云うのはザネリがばかなからだ。」

30 :おたく、名無しさん?:02/05/02 08:57
 ジョバンニは、せわしくいろいろのことを考えながら、さまざまの灯(あかり)
や木の枝(えだ)で、すっかりきれいに飾(かざ)られた街を通って行きました。
時計屋の店には明るくネオン燈がついて、一秒ごとに石でこさえたふくろうの赤い
眼(め)が、くるっくるっとうごいたり、いろいろな宝石が海のような色をした厚
い硝子(ガラス)の盤(ばん)に載(の)って星のようにゆっくり循(めぐ)った
り、また向う側から、銅の人馬がゆっくりこっちへまわって来たりするのでした。
そのまん中に円い黒い星座早見が青いアスパラガスの葉で飾ってありました。

31 :おたく、名無しさん?:02/05/02 08:57
 ジョバンニはわれを忘れて、その星座の図に見入りました。
 それはひる学校で見たあの図よりはずうっと小さかったのですがその日と時間に
合せて盤をまわすと、そのとき出ているそらがそのまま楕円形(だえんけい)のな
かにめぐってあらわれるようになって居(お)りやはりそのまん中には上から下へ
かけて銀河がぼうとけむったような帯になってその下の方ではかすかに爆発(ばく
はつ)して湯気でもあげているように見えるのでした。またそのうしろには三本の
脚(あし)のついた小さな望遠鏡が黄いろに光って立っていましたしいちばんうし
ろの壁(かべ)には空じゅうの星座をふしぎな獣(けもの)や蛇(へび)や魚や瓶
(びん)の形に書いた大きな図がかかっていました。ほんとうにこんなような蝎(さ
そり)だの勇士だのそらにぎっしり居るだろうか、ああぼくはその中をどこまでも
歩いて見たいと思ってたりしてしばらくぼんやり立って居ました。

32 :おたく、名無しさん?:02/05/02 08:58
 それから俄(にわ)かにお母さんの牛乳のことを思いだしてジョバンニはその店
をはなれました。そしてきゅうくつな上着の肩(かた)を気にしながらそれでもわ
ざと胸を張って大きく手を振って町を通って行きました。

33 :おたく、名無しさん?:02/05/02 08:58
 空気は澄(す)みきって、まるで水のように通りや店の中を流れましたし、街燈
はみなまっ青なもみや楢(なら)の枝で包まれ、電気会社の前の六本のプラタヌス
の木などは、中に沢山(たくさん)の豆電燈がついて、ほんとうにそこらは人魚の
都のように見えるのでした。子どもらは、みんな新らしい折のついた着物を着て、
星めぐりの口笛(くちぶえ)を吹(ふ)いたり、
「ケンタウルス、露(つゆ)をふらせ。」と叫んで走ったり、青いマグネシヤの花
火を燃したりして、たのしそうに遊んでいるのでした。けれどもジョバンニは、い
つかまた深く首を垂れて、そこらのにぎやかさとはまるでちがったことを考えなが
ら、牛乳屋の方へ急ぐのでした。

34 :おたく、名無しさん?:02/05/02 09:29
 ジョバンニは、いつか町はずれのポプラの木が幾本(いくほん)も幾本も、高く
星ぞらに浮(うか)んでいるところに来ていました。その牛乳屋の黒い門を入り、
牛の匂(におい)のするうすくらい台所の前に立って、ジョバンニは帽子(ぼうし)
をぬいで「今晩は、」と云いましたら、家の中はしぃんとして誰(たれ)も居たよ
うではありませんでした。

35 :おたく、名無しさん?:02/05/02 09:29
「今晩は、ごめんなさい。」ジョバンニはまっすぐに立ってまた叫びました。する
としばらくたってから、年老(と)った女の人が、どこか工合(ぐあい)が悪いよ
うにそろそろと出て来て何か用かと口の中で云いました。
「あの、今日、牛乳が僕(ぼく)ん[#「ん」は小さな「ん」]とこへ来なかった
ので、貰(もら)いにあがったんです。」ジョバンニが一生けん命勢(いきおい)
よく云いました。
「いま誰もいないでわかりません。あしたにして下さい。」
 その人は、赤い眼の下のとこを擦(こす)りながら、ジョバンニを見おろして云
いました。

36 :おたく、名無しさん?:02/05/02 09:30
「おっかさんが病気なんですから今晩でないと困るんです。」
「ではもう少したってから来てください。」その人はもう行ってしまいそうでした。
「そうですか。ではありがとう。」ジョバンニは、お辞儀(じぎ)をして台所から
出ました。

37 :おたく、名無しさん?:02/05/02 09:30
 十字になった町のかどを、まがろうとしましたら、向うの橋へ行く方の雑貨店の
前で、黒い影やぼんやり白いシャツが入り乱れて、六七人の生徒らが、口笛を吹い
たり笑ったりして、めいめい烏瓜の燈火(あかり)を持ってやって来るのを見まし
た。その笑い声も口笛も、みんな聞きおぼえのあるものでした。ジョバンニの同級
の子供らだったのです。ジョバンニは思わずどきっとして戻(もど)ろうとしまし
たが、思い直して、一そう勢よくそっちへ歩いて行きました。

38 :「川へ行くの。」:02/05/02 09:31
「川へ行くの。」ジョバンニが云おうとして、少しのどがつまったように思ったと
き、
「ジョバンニ、らっこの上着が来るよ。」さっきのザネリがまた叫びました。
「ジョバンニ、らっこの上着が来るよ。」すぐみんなが、続いて叫びました。ジョ
バンニはまっ赤になって、もう歩いているかもわからず、急いで行きすぎようとし
ましたら、そのなかにカムパネルラが居たのです。カムパネルラは気の毒そうに、
だまって少しわらって、怒(おこ)らないだろうかというようにジョバンニの方を
見ていました。

39 : ジョバンニは、:02/05/02 09:32
 ジョバンニは、遁(に)げるようにその眼を避(さ)け、そしてカムパネルラの
せいの高いかたちが過ぎて行って間もなく、みんなはてんでに口笛を吹きました。
町かどを曲るとき、ふりかえって見ましたら、ザネリがやはりふりかえって見てい
ました。そしてカムパネルラもまた、高く口笛を吹いて向うにぼんやり見える橋の
方へ歩いて行ってしまったのでした。ジョバンニは、なんとも云えずさびしくなっ
て、いきなり走り出しました。すると耳に手をあてて、わああと云いながら片足で
ぴょんぴょん跳(と)んでいた小さな子供らは、ジョバンニが面白(おもしろ)く
てかけるのだと思ってわあいと叫びました。まもなくジョバンニは黒い丘(おか)
の方へ急ぎました。

40 :おたく、名無しさん?:02/05/02 11:07




 五、天気輪(てんきりん)の柱

41 :おたく、名無しさん?:02/05/02 11:08
 牧場のうしろはゆるい丘になって、その黒い平らな頂上は、北の大熊星(おおく
まぼし)の下に、ぼんやりふだんよりも低く連って見えました。

42 :おたく、名無しさん?:02/05/02 11:08
 ジョバンニは、もう露の降りかかった小さな林のこみちを、どんどんのぼって行
きました。まっくらな草や、いろいろな形に見えるやぶのしげみの間を、その小さ
なみちが、一すじ白く星あかりに照らしだされてあったのです。草の中には、ぴか
ぴか青びかりを出す小さな虫もいて、ある葉は青くすかし出され、ジョバンニは、
さっきみんなの持って行った烏瓜(からすうり)のあかりのようだとも思いました。

43 :おたく、名無しさん?:02/05/02 11:08
 そのまっ黒な、松や楢(なら)の林を越(こ)えると、俄(にわ)かにがらんと
空がひらけて、天(あま)の川(がわ)がしらしらと南から北へ亘(わた)ってい
るのが見え、また頂(いただき)の、天気輪の柱も見わけられたのでした。つりが
ねそうか野ぎくかの花が、そこらいちめんに、夢(ゆめ)の中からでも薫(かお)
りだしたというように咲き、鳥が一疋(ぴき)、丘の上を鳴き続けながら通って行
きました。

44 :おたく、名無しさん?:02/05/02 11:10
 ジョバンニは、頂の天気輪の柱の下に来て、どかどかするからだを、つめたい草
に投げました。

45 :おたく、名無しさん?:02/05/02 11:10
 町の灯は、暗(やみ)の中をまるで海の底のお宮のけしきのようにともり、子供
らの歌う声や口笛、きれぎれの叫(さけ)び声もかすかに聞えて来るのでした。風
が遠くで鳴り、丘の草もしずかにそよぎ、ジョバンニの汗(あせ)でぬれたシャツ
もつめたく冷されました。ジョバンニは町のはずれから遠く黒くひろがった野原を
見わたしました。

46 :おたく、名無しさん?:02/05/02 12:02
 そこから汽車の音が聞えてきました。その小さな列車の窓は一列小さく赤く見え、
その中にはたくさんの旅人が、苹果(りんご)を剥(む)いたり、わらったり、い
ろいろな風にしていると考えますと、ジョバンニは、もう何とも云えずかなしくなっ
て、また眼をそらに挙げました。

47 :おたく、名無しさん?:02/05/02 12:03
 あああの白いそらの帯がみんな星だというぞ。
 ところがいくら見ていても、そのそらはひる先生の云ったような、がらんとした
冷いとこだとは思われませんでした。それどころでなく、見れば見るほど、そこは
小さな林や牧場やらある野原のように考えられて仕方なかったのです。そしてジョ
バンニは青い琴(こと)の星が、三つにも四つにもなって、ちらちら瞬(またた)
き、脚が何べんも出たり引っ込(こ)んだりして、とうとう蕈(きのこ)のように
長く延びるのを見ました。またすぐ眼の下のまちまでがやっぱりぼんやりしたたく
さんの星の集りか一つの大きなけむりかのように見えるように思いました。

48 :おたく、名無しさん?:02/05/02 12:03



 六、銀河ステーション

49 :おたく、名無しさん?:02/05/02 12:03
 そしてジョバンニはすぐうしろの天気輪の柱がいつかぼんやりした三角標の形に
なって、しばらく蛍(ほたる)のように、ぺかぺか消えたりともったりしているの
を見ました。それはだんだんはっきりして、とうとうりんとうごかないようになり、
濃(こ)い鋼青(こうせい)のそらの野原にたちました。いま新らしく灼(や)い
たばかりの青い鋼(はがね)の板のような、そらの野原に、まっすぐにすきっと立っ
たのです。

50 :おたく、名無しさん?:02/05/02 12:04
 するとどこかで、ふしぎな声が、銀河ステーション、銀河ステーションと云(い)
う声がしたと思うといきなり眼の前が、ぱっと明るくなって、まるで億万の蛍烏賊
(ほたるいか)の火を一ぺんに化石させて、そら中に沈(しず)めたという工合(ぐ
あい)、またダイアモンド会社で、ねだんがやすくならないために、わざと獲(と)
れないふりをして、かくして置いた金剛石(こんごうせき)を、誰(たれ)かがい
きなりひっくりかえして、ばら撒(ま)いたという風に、眼の前がさあっと明るく
なって、ジョバンニは、思わず何べんも眼を擦(こす)ってしまいました。

51 :おたく、名無しさん?:02/05/02 12:04
 気がついてみると、さっきから、ごとごとごとごと、ジョバンニの乗っている小
さな列車が走りつづけていたのでした。ほんとうにジョバンニは、夜の軽便鉄道の、
小さな黄いろの電燈のならんだ車室に、窓から外を見ながら座(すわ)っていたの
です。車室の中は、青い天蚕絨(びろうど)を張った腰掛(こしか)けが、まるで
がら明きで、向うの鼠(ねずみ)いろのワニスを塗った壁(らべ)には、真鍮(し
んちゅう)の大きなぼたんが二つ光っているのでした。

52 :おたく、名無しさん?:02/05/02 15:52
 すぐ前の席に、ぬれたようにまっ黒な上着を着た、せいの高い子供が、窓から頭
を出して外を見ているのに気が付きました。そしてそのこどもの肩(かた)のあた
りが、どうも見たことのあるような気がして、そう思うと、もうどうしても誰だか
わかりたくて、たまらなくなりました。いきなりこっちも窓から顔を出そうとした
とき、俄かにその子供が頭を引っ込めて、こっちを見ました。
 それはカムパネルラだったのです。

53 :おたく、名無しさん?:02/05/02 15:53
 ジョバンニが、カムパネルラ、きみは前からここに居たのと云おうと思ったとき、
カムパネルラが
「みんなはねずいぶん走ったけれども遅(おく)れてしまったよ。ザネリもね、ず
いぶん走ったけれども追いつかなかった。」と云いました。
 ジョバンニは、(そうだ、ぼくたちはいま、いっしょにさそって出掛けたのだ。)
とおもいながら、
「どこかで待っていようか」と云いました。するとカムパネルラは
「ザネリはもう帰ったよ。お父さんが迎(むか)いにきたんだ。」

54 :おたく、名無しさん?:02/05/02 15:53
 カムパネルラは、なぜかそう云いながら、少し顔いろが青ざめて、どこか苦しい
というふうでした。するとジョバンニも、なんだかどこかに、何か忘れたものがあ
るというような、おかしな気持ちがしてだまってしまいました。

55 :おたく、名無しさん?:02/05/02 15:54
 ところがカムパネルラは、窓から外をのぞきながら、もうすっかり元気が直って、
勢(いきおい)よく云いました。
「ああしまった。ぼく、水筒(すいとう)を忘れてきた。スケッチ帳も忘れてきた。
けれど構わない。もうじき白鳥の停車場だから。ぼく、白鳥を見るなら、ほんとう
にすきだ。川の遠くを飛んでいたって、ぼくはきっと見える。」そして、カムパネ
ルラは、円い板のようになった地図を、しきりにぐるぐるまわして見ていました。
まったくその中に、白くあらわされた天の川の左の岸に沿って一条の鉄道線路が、
南へ南へとたどって行くのでした。そしてその地図の立派なことは、夜のようにまっ
黒な盤(ばん)の上に、一一の停車場や三角標(さんかくひょう)、泉水や森が、
青や橙(だいだい)や緑や、うつくしい光でちりばめられてありました。ジョバン
ニはなんだかその地図をどこかで見たようにおもいました。

56 :おたく、名無しさん?:02/05/02 15:54
「この地図はどこで買ったの。黒曜石でできてるねえ。」
 ジョバンニが云いました。
「銀河ステーションで、もらったんだ。君もらわなかったの。」
「ああ、ぼく銀河ステーションを通ったろうか。いまぼくたちの居るとこ、ここだ
ろう。」
 ジョバンニは、白鳥と書いてある停車場のしるしの、すぐ北を指(さ)しました。
「そうだ。おや、あの河原(かわら)は月夜だろうか。」 そっちを見ますと、青
白く光る銀河の岸に、銀いろの空のすすきが、もうまるでいちめん、風にさらさら
さらさら、ゆられてうごいて、波を立てているのでした。

57 :おたく、名無しさん?:02/05/02 15:55
「月夜でないよ。銀河だから光るんだよ。」ジョバンニは云いながら、まるではね
上りたいくらい愉快(ゆかい)になって、足をこつこつ鳴らし、窓から顔を出して、
高く高く星めぐりの口笛(くちぶえ)を吹(ふ)きながら一生けん命延びあがって、
その天の川の水を、見きわめようとしましたが、はじめはどうしてもそれが、はっ
きりしませんでした。けれどもだんだん気をつけて見ると、そのきれいな水は、ガ
ラスよりも水素よりもすきとおって、ときどき眼(め)の加減か、ちらちら紫(む
らさき)いろのこまかな波をたてたり、虹(にじ)のようにぎらっと光ったりしな
がら、声もなくどんどん流れて行き、野原にはあっちにもこっちにも、燐光(りん
こう)の三角標が、うつくしく立っていたのです。遠いものは小さく、近いものは
大きく、遠いものは橙や黄いろではっきりし、近いものは青白く少しかすんで、或
(ある)いは三角形、或いは四辺形、あるいは電(いなずま)や鎖(くさり)の形、
さまざまにならんで、野原いっぱい光っているのでした。ジョバンニは、まるでど
きどきして、頭をやけに振(ふ)りました。するとほんとうに、そのきれいな野原
中の青や橙や、いろいろかがやく三角標も、てんでに息をつくように、ちらちらゆ
れたり顫(ふる)えたりしました。

58 :おたく、名無しさん?:02/05/02 16:21
「ぼくはもう、すっかり天の野原に来た。」ジョバンニは云いました。
「それにこの汽車石炭をたいていないねえ。」ジョバンニが左手をつき出して窓か
ら前の方を見ながら云いました。
「アルコールか電気だろう。」カムパネルラが云いました。
 ごとごとごとごと、その小さなきれいな汽車は、そらのすすきの風にひるがえる
中を、天の川の水や、三角点の青じろい微光(びこう)の中を、どこまでもどこま
でもと、走って行くのでした。

59 :おたく、名無しさん?:02/05/02 16:22
「ああ、りんどうの花が咲いている。もうすっかり秋だねえ。」カムパネルラが、
窓の外を指さして云いました。
 線路のへりになったみじかい芝草(しばくさ)の中に、月長石ででも刻(きざ)
まれたような、すばらしい紫のりんどうの花が咲いていました。
「ぼく、飛び下りて、あいつをとって、また飛び乗ってみせようか。」ジョバンニ
は胸を躍(おど)らせて云いました。
「もうだめだ。あんなにうしろへ行ってしまったから。」
 カムパネルラが、そう云ってしまうかしまわないうち、次のりんどうの花が、いっ
ぱいに光って過ぎて行きました。
 と思ったら、もう次から次から、たくさんのきいろな底をもったりんどうの花の
コップが、湧(わ)くように、雨のように、眼の前を通り、三角標の列は、けむる
ように燃えるように、いよいよ光って立ったのです。

60 :おたく、名無しさん?:02/05/02 16:22



 七、北十字とプリオシン海岸

61 :おたく、名無しさん?:02/05/02 16:23
「おっかさんは、ぼくをゆるして下さるだろうか。」
 いきなり、カムパネルラが、思い切ったというように、少しどもりながら、急(せ)
きこんで云(い)いました。

62 :おたく、名無しさん?:02/05/02 16:23
 ジョバンニは、
(ああ、そうだ、ぼくのおっかさんは、あの遠い一つのちりのように見える橙(だ
いだい)いろの三角標のあたりにいらっしゃって、いまぼくのことを考えているん
だった。)と思いながら、ぼんやりしてだまっていました。

63 : :02/05/07 09:19
「ぼくはおっかさんが、ほんとうに幸(さいわい)になるなら、どんなことでもす
る。けれども、いったいどんなことが、おっかさんのいちばんの幸なんだろう。」
カムパネルラは、なんだか、泣きだしたいのを、一生けん命こらえているようでし
た。

64 : :02/05/07 09:19
「きみのおっかさんは、なんにもひどいことないじゃないの。」ジョバンニはびっ
くりして叫(さけ)びました。
「ぼくわからない。けれども、誰(たれ)だって、ほんとうにいいことをしたら、
いちばん幸なんだねえ。だから、おっかさんは、ぼくをゆるして下さると思う。」
カムパネルラは、なにかほんとうに決心しているように見えました。

65 : :02/05/07 09:19
 俄(にわ)かに、車のなかが、ぱっと白く明るくなりました。見ると、もうじつ
に、金剛石(こんごうせき)や草の露(つゆ)やあらゆる立派さをあつめたような、
きらびやかな銀河の河床(かわどこ)の上を水は声もなくかたちもなく流れ、その
流れのまん中に、ぼうっと青白く後光の射(さ)した一つの島が見えるのでした。
その島の平らないただきに、立派な眼もさめるような、白い十字架(じゅうじか)
がたって、それはもう凍(こお)った北極の雪で鋳(い)たといったらいいか、す
きっとした金いろの円光をいただいて、しずかに永久に立っているのでした。

66 : :02/05/07 09:20
「ハルレヤ、ハルレヤ。」前からもうしろからも声が起りました。ふりかえって見
ると、車室の中の旅人たちは、みなまっすぐにきもののひだを垂れ、黒いバイブル
を胸にあてたり、水晶(すいしょう)の数珠(じゅず)をかけたり、どの人もつつ
ましく指を組み合せて、そっちに祈(いの)っているのでした。思わず二人もまっ
すぐに立ちあがりました。カムパネルラの頬(ほほ)は、まるで熟した苹果(りん
ご)のあかしのようにうつくしくかがやいて見えました。
 そして島と十字架とは、だんだんうしろの方へうつって行きました。

67 : :02/05/07 09:20
 向う岸も、青じろくぽうっと光ってけむり、時々、やっぱりすすきが風にひるが
えるらしく、さっとその銀いろがけむって、息でもかけたように見え、また、たく
さんのりんどうの花が、草をかくれたり出たりするのは、やさしい狐火(きつねび)
のように思われました。

68 : :02/05/07 10:36
 それもほんのちょっとの間、川と汽車との間は、すすきの列でさえぎられ、白鳥
の島は、二度ばかり、うしろの方に見えましたが、じきもうずうっと遠く小さく、
絵のようになってしまい、またすすきがざわざわ鳴って、とうとうすっかり見えな
くなってしまいました。ジョバンニのうしろには、いつから乗っていたのか、せい
の高い、黒いかつぎをしたカトリック風の尼(あま)さんが、まん円な緑の瞳(ひ
とみ)を、じっとまっすぐに落して、まだ何かことばか声かが、そっちから伝わっ
て来るのを、虔(つつし)んで聞いているというように見えました。旅人たちはし
ずかに席に戻(もど)り、二人も胸いっぱいのかなしみに似た新らしい気持ちを、
何気なくちがった語(ことば)で、そっと談(はな)し合ったのです。
「もうじき白鳥の停車場だねえ。」
「ああ、十一時かっきりには着くんだよ。」

69 : :02/05/07 10:36
 早くも、シグナルの緑の燈(あかり)と、ぼんやり白い柱とが、ちらっと窓のそ
とを過ぎ、それから硫黄(いおう)のほのおのようなくらいぼんやりした転てつ機
の前のあかりが窓の下を通り、汽車はだんだんゆるやかになって、間もなくプラッ
トホームの一列の電燈が、うつくしく規則正しくあらわれ、それがだんだん大きく
なってひろがって、二人は丁度白鳥停車場の、大きな時計の前に来てとまりました。

70 : :02/05/07 10:37
 さわやかな秋の時計の盤面(ダイアル)には、青く灼(や)かれたはがねの二本
の針が、くっきり十一時を指しました。みんなは、一ぺんに下りて、車室の中はが
らんとなってしまいました。

71 : :02/05/07 10:37
〔二十分停車〕と時計の下に書いてありました。
「ぼくたちも降りて見ようか。」ジョバンニが云いました。
「降りよう。」
 二人は一度にはねあがってドアを飛び出して改札口(かいさつぐち)へかけて行
きました。ところが改札口には、明るい紫(むらさき)がかった電燈が、一つ点(つ)
いているばかり、誰(たれ)も居ませんでした。そこら中を見ても、駅長や赤帽(あ
かぼう)らしい人の、影(かげ)もなかったのです。

72 : :02/05/07 10:38
 二人は、停車場の前の、水晶細工のように見える銀杏(いちょう)の木に囲まれ
た、小さな広場に出ました。そこから幅(はば)の広いみちが、まっすぐに銀河の
青光の中へ通っていました。         

73 : :02/05/07 10:38
 さきに降りた人たちは、もうどこへ行ったか一人も見えませんでした。二人がそ
の白い道を、肩(かた)をならべて行きますと、二人の影は、ちょうど四方に窓の
ある室(へや)の中の、二本の柱の影のように、また二つの車輪の輻(や)のよう
に幾本(いくほん)も幾本も四方へ出るのでした。そして間もなく、あの汽車から
見えたきれいな河原(かわら)に来ました。

74 : :02/05/07 11:49
 カムパネルラは、そのきれいな砂を一つまみ、掌(てのひら)にひろげ、指でき
しきしさせながら、夢(ゆめ)のように云っているのでした。
「この砂はみんな水晶だ。中で小さな火が燃えている。」
「そうだ。」どこでぼくは、そんなこと習ったろうと思いながら、ジョバンニもぼ
んやり答えていました。

75 : :02/05/07 11:49
 河原の礫(こいし)は、みんなすきとおって、たしかに水晶や黄玉(トパーズ)
や、またくしゃくしゃの皺曲(しゅうきょく)をあらわしたのや、また稜(かど)
から霧(きり)のような青白い光を出す鋼玉やらでした。ジョバンニは、走ってそ
の渚(なぎさ)に行って、水に手をひたしました。けれどもあやしいその銀河の水
は、水素よりももっとすきとおっていたのです。それでもたしかに流れていたこと
は、二人の手首の、水にひたったとこが、少し水銀いろに浮(う)いたように見え、
その手首にぶっつかってできた波は、うつくしい燐光(りんこう)をあげて、ちら
ちらと燃えるように見えたのでもわかりました。

76 : :02/05/07 11:50
 川上の方を見ると、すすきのいっぱいに生えている崖(がけ)の下に、白い岩が、
まるで運動場のように平らに川に沿って出ているのでした。そこに小さな五六人の
人かげが、何か掘(ほ)り出すか埋めるかしているらしく、立ったり屈(かが)ん
だり、時々なにかの道具が、ピカッと光ったりしました。

77 : :02/05/07 11:51
「行ってみよう。」二人は、まるで一度に叫んで、そっちの方へ走りました。その
白い岩になった処(ところ)の入口に、
〔プリオシン海岸〕という、瀬戸物(せともの)のつるつるした標札が立って、向
うの渚には、ところどころ、細い鉄の欄干(らんかん)も植えられ、木製のきれい
なベンチも置いてありました。

78 : :02/05/07 11:52
「おや、変なものがあるよ。」カムパネルラが、不思議そうに立ちどまって、岩か
ら黒い細長いさきの尖(とが)ったくるみの実のようなものをひろいました。
「くるみの実だよ。そら、沢山(たくさん)ある。流れて来たんじゃない。岩の中
に入ってるんだ。」
「大きいね、このくるみ、倍あるね。こいつはすこしもいたんでない。」
「早くあすこへ行って見よう。きっと何か掘ってるから。」

79 : :02/05/07 11:52
 二人は、ぎざぎざの黒いくるみの実を持ちながら、またさっきの方へ近よって行
きました。左手の渚には、波がやさしい稲妻(いなづま)のように燃えて寄せ、右
手の崖には、いちめん銀や貝殻(かいがら)でこさえたようなすすきの穂(ほ)が
ゆれたのです。

80 : :02/05/07 12:38
 だんだん近付いて見ると、一人のせいの高い、ひどい近眼鏡をかけ、長靴(なが
ぐつ)をはいた学者らしい人が、手帳に何かせわしそうに書きつけながら、鶴嘴(つ
るはし)をふりあげたり、スコープをつかったりしている、三人の助手らしい人た
ちに夢中(むちゅう)でいろいろ指図をしていました。

81 : :02/05/07 12:38
「そこのその突起(とっき)を壊(こわ)さないように。スコープを使いたまえ、
スコープを。おっと、も少し遠くから掘って。いけない、いけない。なぜそんな乱
暴をするんだ。」
 見ると、その白い柔(やわ)らかな岩の中から、大きな大きな青じろい獣(けも
の)の骨が、横に倒(たお)れて潰(つぶ)れたという風になって、半分以上掘り
出されていました。そして気をつけて見ると、そこらには、蹄(ひづめ)の二つあ
る足跡(あしあと)のついた岩が、四角に十ばかり、きれいに切り取られて番号が
つけられてありました。

82 : :02/05/07 12:39
「君たちは参観かね。」その大学士らしい人が、眼鏡(めがね)をきらっとさせて、
こっちを見て話しかけました。
「くるみが沢山あったろう。それはまあ、ざっと百二十万年ぐらい前のくるみだよ。
ごく新らしい方さ。ここは百二十万年前、第三紀のあとのころは海岸でね、この下
からは貝がらも出る。いま川の流れているとこに、そっくり塩水が寄せたり引いた
りもしていたのだ。このけものかね、これはボスといってね、おいおい、そこつる
はしはよしたまえ。ていねいに鑿(のみ)でやってくれたまえ。ボスといってね、
いまの牛の先祖で、昔(むかし)はたくさん居たさ。」

83 : :02/05/07 12:39
「標本にするんですか。」
「いや、証明するに要(い)るんだ。ぼくらからみると、ここは厚い立派な地層で、
百二十万年ぐらい前にできたという証拠(しょうこ)もいろいろあがるけれども、
ぼくらとちがったやつからみてもやっぱりこんな地層に見えるかどうか、あるいは
風か水やがらんとした空かに見えやしないかということなのだ。わかったかい。け
れども、おいおい。そこもスコープではいけない。そのすぐ下に肋骨(ろっこつ)
が埋もれてる筈(はず)じゃないか。」大学士はあわてて走って行きました。

84 : :02/05/07 12:40
「もう時間だよ。行こう。」カムパネルラが地図と腕時計(うでどけい)とをくら
べながら云いました。
「ああ、ではわたくしどもは失礼いたします。」ジョバンニは、ていねいに大学士
におじぎしました。
「そうですか。いや、さよなら。」大学士は、また忙(いそ)がしそうに、あちこ
ち歩きまわって監督(かんとく)をはじめました。二人は、その白い岩の上を、一
生けん命汽車におくれないように走りました。そしてほんとうに、風のように走れ
たのです。息も切れず膝(ひざ)もあつくなりませんでした。
 こんなにしてかけるなら、もう世界中だってかけれると、ジョバンニは思いまし
た。

85 : :02/05/07 12:40
 そして二人は、前のあの河原を通り、改札口の電燈がだんだん大きくなって、間
もなく二人は、もとの車室の席に座(すわ)って、いま行って来た方を、窓から見
ていました。

86 :おたく、名無しさん?:02/05/07 13:06
「此処へかけてもようございますか」
 がさがさした、けれども親切そうな、大人の声が、二人の後ろで聞こえました。
 それは、茶色の少しぼろぼろの外套を着て、白い巾でつつんだ荷物を、二つに分けて肩に掛けた、赤髯のせなかのかがんだ人でした。
「ええ、いいんです」 ジョバンニは、少し肩をすぼめて挨拶しました。 その人は、ひげの中でかすかに微笑いながら、荷物をゆっくり網棚にのせました。 
ジョバンニは、何か大へんさびしいようなかなしいような気がして、だまった正面の時計を見ていましたら、ずうっと前の方で
硝子の笛のようなものが鳴りました。 汽車はもう、しずかにうごいていたのです。 カムパネルラは、車室の天井を、あちこち見ていました。 
その一つの明りに黒い甲虫がとまってその影が大きく天井にうつっていたのです。 赤ひげの人は、なにかなつかしそうにわらいながら、ジョバンニやカムパネルラ
の様子を見ていました。 汽車はもうだんだん早くなって、すすきと川と、かわるがわる窓の外から光りました。

87 :おたく、名無しさん?:02/05/07 13:13
 赤髯の人が、すこしおずおずしながら、二人に訊きました。
「あなた方は、どちらへいらっしゃるんですか」
「どこまでも行くんです」 ジョバンニは、少しきまり悪そうに答えました。
「それはいいね。この汽車は、じっさい、どこまででも行きますぜ」
「あなたはどこへ行くんです」 カムパネルラが、いきなり、喧嘩のように
たずねましたので、ジョバンニは、思わずわらいました。 すると、向うの
席にいた、尖った帽子をかぶり、大きな鍵を腰に下げた人も、ちらっとこっちを
みてわらいましたので、カムパネルラも、つい顔を赤くして笑いだしてしまいました。
ところがその人は別に怒ったでもなく、頬をぴくぴくしながら返事しました。
「わっしはすぐそこで降ります。 わっしは、鳥をつかまえる商売でね」
「何鳥ですか」
「鶴や雁です。 さぎも白鳥もです」
「鶴はたくさんいますか」
「いますとも、さっきから鳴いてまさあ。 聞かなかったのですか」
「いいえ」
「いまでも聞こえるじゃありませんか。 そら、耳をすまして聴いてごらんなさい」

88 : :02/05/07 14:42
 二人は眼(め)を挙げ、耳をすましました。ごとごと鳴る汽車のひびきと、すす
きの風との間から、ころんころんと水の湧(わ)くような音が聞えて来るのでした。
「鶴、どうしてとるんですか。」
「鶴ですか、それとも鷺(さぎ)ですか。」
「鷺です。」ジョバンニは、どっちでもいいと思いながら答えました。

89 : :02/05/07 14:43
「そいつはな、雑作(ぞうさ)ない。さぎというものは、みんな天の川の砂が凝(こ
ご)って、ぼおっとできるもんですからね、そして始終川へ帰りますからね、川原
で待っていて、鷺がみんな、脚(あし)をこういう風にして下りてくるところを、
そいつが地べたへつくかつかないうちに、ぴたっと押(おさ)えちまうんです。す
るともう鷺は、かたまって安心して死んじまいます。あとはもう、わかり切ってま
さあ。押し葉にするだけです。」
「鷺を押し葉にするんですか。標本ですか。」
「標本じゃありません。みんなたべるじゃありませんか。」
「おかしいねえ。」カムパネルラが首をかしげました。

90 : :02/05/07 14:43
「おかしいも不審(ふしん)もありませんや。そら。」その男は立って、網棚から
包みをおろして、手ばやくくるくると解きました。
「さあ、ごらんなさい。いまとって来たばかりです。」
「ほんとうに鷺だねえ。」二人は思わず叫(さけ)びました。まっ白な、あのさっ
きの北の十字架(じゅうじか)のように光る鷺のからだが、十ばかり、少しひらべっ
たくなって、黒い脚をちぢめて、浮彫(うきぼり)のようにならんでいたのです。
「眼をつぶってるね。」カムパネルラは、指でそっと、鷺の三日月がたの白い瞑(つ
ぶ)った眼にさわりました。頭の上の槍(やり)のような白い毛もちゃんとついて
いました。

91 : :02/05/07 14:44
「ね、そうでしょう。」鳥捕りは風呂敷(ふろしき)を重ねて、またくるくると包
んで紐(ひも)でくくりました。誰(たれ)がいったいここらで鷺なんぞ喰(た)
べるだろうとジョバンニは思いながら訊きました。
「鷺はおいしいんですか。」
「ええ、毎日注文があります。しかし雁(がん)の方が、もっと売れます。雁の方
がずっと柄(がら)がいいし、第一手数がありませんからな。そら。」鳥捕りは、
また別の方の包みを解きました。すると黄と青じろとまだらになって、なにかのあ
かりのようにひかる雁が、ちょうどさっきの鷺のように、くちばしを揃(そろ)え
て、少し扁(ひら)べったくなって、ならんでいました。

92 : :02/05/07 14:44
「こっちはすぐ喰べられます。どうです、少しおあがりなさい。」鳥捕りは、黄い
ろな雁の足を、軽くひっぱりました。するとそれは、チョコレートででもできてい
るように、すっときれいにはなれました。
「どうです。すこしたべてごらんなさい。」鳥捕りは、それを二つにちぎってわた
しました。ジョバンニは、ちょっと喰べてみて、(なんだ、やっぱりこいつはお菓
子(かし)だ。チョコレートよりも、もっとおいしいけれども、こんな雁が飛んで
いるもんか。この男は、どこかそこらの野原の菓子屋(かしや)だ。けれどもぼく
は、このひとをばかにしながら、この人のお菓子をたべているのは、大へん気の毒
だ。)とおもいながら、やっぱりぽくぽくそれをたべていました。

93 : :02/05/07 14:45
「も少しおあがりなさい。」鳥捕りがまた包みを出しました。ジョバンニは、もっ
とたべたかったのですけれども、
「ええ、ありがとう。」と云(い)って遠慮(えんりょ)しましたら、鳥捕りは、
こんどは向うの席の、鍵(かぎ)をもった人に出しました。
「いや、商売ものを貰(もら)っちゃすみませんな。」その人は、帽子(ぼうし)
をとりました。

94 : :02/05/07 15:05
「いいえ、どういたしまして。どうです、今年の渡(わた)り鳥(どり)の景気は。」
「いや、すてきなもんですよ。一昨日(おととい)の第二限ころなんか、なぜ燈台
の灯(ひ)を、規則以外に間〔一字分空白〕させるかって、あっちからもこっちか
らも、電話で故障が来ましたが、なあに、こっちがやるんじゃなくて、渡り鳥ども
が、まっ黒にかたまって、あかしの前を通るのですから仕方ありませんや。わたし
ぁ、べらぼうめ、そんな苦情は、おれのとこへ持って来たって仕方がねえや、ばさ
ばさのマントを着て脚と口との途方(とほう)もなく細い大将へやれって、斯(こ)
う云ってやりましたがね、はっは。」

95 : :02/05/07 15:06
 すすきがなくなったために、向うの野原から、ぱっとあかりが射(さ)して来ま
した。
「鷺(さぎ)の方はなぜ手数なんですか。」カムパネルラは、さっきから、訊こう
と思っていたのです。
「それはね、鷺を喰べるには、」鳥捕りは、こっちに向き直りました。
「天の川の水あかりに、十日もつるして置くかね、そうでなけぁ、砂に三四日うず
めなけぁいけないんだ。そうすると、水銀がみんな蒸発して、喰べられるようにな
るよ。」

96 : :02/05/07 15:06
「こいつは鳥じゃない。ただのお菓子でしょう。」やっぱりおなじことを考えてい
たとみえて、カムパネルラが、思い切ったというように、尋(たず)ねました。鳥
捕りは、何か大へんあわてた風で、
「そうそう、ここで降りなけぁ。」と云いながら、立って荷物をとったと思うと、
もう見えなくなっていました。

97 : :02/05/07 15:07
「どこへ行ったんだろう。」
 二人は顔を見合せましたら、燈台守は、にやにや笑って、少し伸(の)びあがる
ようにしながら、二人の横の窓の外をのぞきました。二人もそっちを見ましたら、
たったいまの鳥捕りが、黄いろと青じろの、うつくしい燐光(りんこう)を出す、
いちめんのかわらははこぐさの上に立って、まじめな顔をして両手をひろげて、じっ
とそらを見ていたのです。

98 : :02/05/07 15:07
「あすこへ行ってる。ずいぶん奇体(きたい)だねえ。きっとまた鳥をつかまえる
とこだねえ。汽車が走って行かないうちに、早く鳥がおりるといいな。」と云った
途端(とたん)、がらんとした桔梗(ききよう)いろの空から、さっき見たような
鷺(さぎ)が、まるで雪の降るように、ぎゃあぎゃあ叫びながら、いっぱいに舞(ま)
いおりて来ました。するとあの鳥捕りは、すっかり注文通りだというようにほくほ
くして、両足をかっきり六十度に開いて立って、鷺のちぢめて降りて来る黒い脚を
両手で片(かた)っ端(ぱし)から押えて、布の袋(ふくろ)の中に入れるのでし
た。すると鷺は、蛍(ほたる)のように、袋の中でしばらく、青くぺかぺか光った
り消えたりしていましたが、おしまいとうとう、みんなぼんやり白くなって、眼を
つぶるのでした。ところが、つかまえられる鳥よりは、つかまえられないで無事に
天(あま)の川(がわ)の砂の上に降りるものの方が多かったのです。それは見て
いると、足が砂へつくや否(いな)や、まるで雪の融(と)けるように、縮(ちぢ)
まって扁(ひら)べったくなって、間もなく熔鉱炉(ようこうろ)から出た銅の汁
(しる)のように、砂や砂利(じゃり)の上にひろがり、しばらくは鳥の形が、砂
についているのでしたが、それも二三度明るくなったり暗くなったりしているうち
に、もうすっかりまわりと同じいろになってしまうのでした。

99 : :02/05/07 15:07
 鳥捕りは二十疋(ぴき)ばかり、袋に入れてしまうと、急に両手をあげて、兵隊
が鉄砲弾(てっぽうだま)にあたって、死ぬときのような形をしました。と思った
ら、もうそこに鳥捕りの形はなくなって、却(かえ)って、
「ああせいせいした。どうもからだに恰度(ちょうど)合うほど稼(かせ)いでい
るくらい、いいことはありませんな。」というききおぼえのある声が、ジョバンニ
の隣(とな)りにしました。見ると鳥捕りは、もうそこでとって来た鷺を、きちん
とそろえて、一つずつ重ね直しているのでした。

100 : :02/05/07 16:02
「どうしてあすこから、いっぺんにここへ来たんですか。」ジョバンニが、なんだ
かあたりまえのような、あたりまえでないような、おかしな気がして問いました。
「どうしてって、来ようとしたから来たんです。ぜんたいあなた方は、どちらから
おいでですか。」
 ジョバンニは、すぐ返事しようと思いましたけれども、さあ、ぜんたいどこから
来たのか、もうどうしても考えつきませんでした。カムパネルラも、顔をまっ赤に
して何か思い出そうとしているのでした。
「ああ、遠くからですね。」鳥捕りは、わかったというように雑作なくうなずきま
した。

101 : :02/05/07 16:03



 九、ジョバンニの切符(きっぷ)

102 : :02/05/07 16:03
「もうここらは白鳥区のおしまいです。ごらんなさい。あれが名高いアルビレオの
観測所です。」

103 : :02/05/07 16:03
 窓の外の、まるで花火でいっぱいのような、あまの川のまん中に、黒い大きな建
物が四棟(むね)ばかり立って、その一つの平屋根の上に、眼(め)もさめるよう
な、青宝玉(サファイア)と黄玉(トパース)の大きな二つのすきとおった球が、
輪になってしずかにくるくるとまわっていました。黄いろのがだんだん向うへまわっ
て行って、青い小さいのがこっちへ進んで来、間もなく二つのはじは、重なり合っ
て、きれいな緑いろの両面凸(とつ)レンズのかたちをつくり、それもだんだん、
まん中がふくらみ出して、とうとう青いのは、すっかりトパースの正面に来ました
ので、緑の中心と黄いろな明るい環(わ)とができました。それがまただんだん横
へ外(そ)れて、前のレンズの形を逆に繰(く)り返し、とうとうすっとはなれて、
サファイアは向うへめぐり、黄いろのはこっちへ進み、また丁度さっきのような風
になりました。銀河の、かたちもなく音もない水にかこまれて、ほんとうにその黒
い測候所が、睡(ねむ)っているように、しずかによこたわったのです。

104 : :02/05/07 16:04
「あれは、水の速さをはかる器械です。水も……。」鳥捕(とりと)りが云いかけ
たとき、
「切符を拝見いたします。」三人の席の横に、赤い帽子(ぼうし)をかぶったせい
の高い車掌(しゃしょう)が、いつかまっすぐに立っていて云いました。鳥捕りは、
だまってかくしから、小さな紙きれを出しました。車掌はちょっと見て、すぐ眼を
そらして、(あなた方のは?)というように、指をうごかしながら、手をジョバン
ニたちの方へ出しました。

105 : :02/05/07 16:05
「さあ、」ジョバンニは困って、もじもじしていましたら、カムパネルラは、わけ
もないという風で、小さな鼠(ねずみ)いろの切符を出しました。ジョバンニは、
すっかりあわててしまって、もしか上着のポケットにでも、入っていたかとおもい
ながら、手を入れて見ましたら、何か大きな畳(たた)んだ紙きれにあたりました。
こんなもの入っていたろうかと思って、急いで出してみましたら、それは四つに折っ
たはがきぐらいの大きさの緑いろの紙でした。車掌が手を出しているもんですから
何でも構わない、やっちまえと思って渡しましたら、車掌はまっすぐに立ち直って
叮寧(ていねい)にそれを開いて見ていました。そして読みながら上着のぼたんや
なんかしきりに直したりしていましたし燈台看守も下からそれを熱心にのぞいてい
ましたから、ジョバンニはたしかにあれは証明書か何かだったと考えて少し胸が熱
くなるような気がしました。

106 : :02/05/07 16:14
「これは三次空間の方からお持ちになったのですか。」車掌がたずねました。
「何だかわかりません。」もう大丈夫(だいじょうぶ)だと安心しながらジョバン
ニはそっちを見あげてくつくつ笑いました。
「よろしゅうございます。南十字(サウザンクロス)へ着きますのは、次の第三時
ころになります。」車掌は紙をジョバンニに渡して向うへ行きました。

107 : :02/05/07 16:14
 カムパネルラは、その紙切れが何だったか待ち兼ねたというように急いでのぞき
こみました。ジョバンニも全く早く見たかったのです。ところがそれはいちめん黒
い唐草(からくさ)のような模様の中に、おかしな十ばかりの字を印刷したもので
だまって見ていると何だかその中へ吸い込(こ)まれてしまうような気がするので
した。すると鳥捕りが横からちらっとそれを見てあわてたように云いました。
「おや、こいつは大したもんですぜ。こいつはもう、ほんとうの天上へさえ行ける
切符だ。天上どこじゃない、どこでも勝手にあるける通行券です。こいつをお持ち
になれぁ、なるほど、こんな不完全な幻想(げんそう)第四次の銀河鉄道なんか、
どこまででも行ける筈(はず)でさあ、あなた方大したもんですね。」

108 : :02/05/07 16:14
「何だかわかりません。」ジョバンニが赤くなって答えながらそれを又(また)畳
んでかくしに入れました。そしてきまりが悪いのでカムパネルラと二人、また窓の
外をながめていましたが、その鳥捕りの時々大したもんだというようにちらちらこっ
ちを見ているのがぼんやりわかりました。
「もうじき鷲(わし)の停車場だよ。」カムパネルラが向う岸の、三つならんだ小
さな青じろい三角標と地図とを見較(みくら)べて云いました。

109 : :02/05/07 16:15
 ジョバンニはなんだかわけもわからずににわかにとなりの鳥捕りが気の毒でたま
らなくなりました。鷺(さぎ)をつかまえてせいせいしたとよろこんだり、白いき
れでそれをくるくる包んだり、ひとの切符をびっくりしたように横目で見てあわて
てほめだしたり、そんなことを一一考えていると、もうその見ず知らずの鳥捕りの
ために、ジョバンニの持っているものでも食べるものでもなんでもやってしまいた
い、もうこの人のほんとうの幸(さいわい)になるなら自分があの光る天の川の河
原(かわら)に立って百年つづけて立って鳥をとってやってもいいというような気
がして、どうしてももう黙(だま)っていられなくなりました。ほんとうにあなた
のほしいものは一体何ですか、と訊(き)こうとして、それではあんまり出し抜(ぬ)
けだから、どうしようかと考えて振(ふ)り返って見ましたら、そこにはもうあの
鳥捕りが居ませんでした。網棚(あみだな)の上には白い荷物も見えなかったので
す。また窓の外で足をふんばってそらを見上げて鷺を捕る支度(したく)をしてい
るのかと思って、急いでそっちを見ましたが、外はいちめんのうつくしい砂子と白
いすすきの波ばかり、あの鳥捕りの広いせなかも尖(とが)った帽子も見えません
でした。

110 : :02/05/07 16:16
「あの人どこへ行ったろう。」カムパネルラもぼんやりそう云っていました。
「どこへ行ったろう。一体どこでまたあうのだろう。僕(ぼく)はどうしても少し
あの人に物を言わなかったろう。」
「ああ、僕もそう思っているよ。」
「僕はあの人が邪魔(じゃま)なような気がしたんだ。だから僕は大へんつらい。」
ジョバンニはこんな変てこな気もちは、ほんとうにはじめてだし、こんなこと今ま
で云ったこともないと思いました。

111 : :02/05/07 16:31
「何だか苹果(りんご)の匂(におい)がする。僕いま苹果のこと考えたためだろ
うか。」カムパネルラが不思議そうにあたりを見まわしました。
「ほんとうに苹果の匂だよ。それから野茨(のいばら)の匂もする。」ジョバンニ
もそこらを見ましたがやっぱりそれは窓からでも入って来るらしいのでした。いま
秋だから野茨の花の匂のする筈はないとジョバンニは思いました。

112 : :02/05/07 16:31
 そしたら俄(にわ)かにそこに、つやつやした黒い髪(かみ)の六つばかりの男
の子が赤いジャケツのぼたんもかけずひどくびっくりしたような顔をしてがたがた
ふるえてはだしで立っていました。隣(とな)りには黒い洋服をきちんと着たせい
の高い青年が一ぱいに風に吹(ふ)かれているけやきの木のような姿勢で、男の子
の手をしっかりひいて立っていました。

113 : :02/05/07 16:32
「あら、ここどこでしょう。まあ、きれいだわ。」青年のうしろにもひとり十二ば
かりの眼の茶いろな可愛(かあい)らしい女の子が黒い外套(がいとう)を着て青
年の腕(うで)にすがって不思議そうに窓の外を見ているのでした。
「ああ、ここはランカシャイヤだ。いや、コンネクテカット州だ。いや、ああ、ぼ
くたちはそらへ来たのだ。わたしたちは天へ行くのです。ごらんなさい。あのしる
しは天上のしるしです。もうなんにもこわいことありません。わたくしたちは神さ
まに召(め)されているのです。」黒服の青年はよろこびにかがやいてその女の子
に云(い)いました。けれどもなぜかまた額に深く皺(しわ)を刻んで、それに大
へんつかれているらしく、無理に笑いながら男の子をジョバンニのとなりに座(す
わ)らせました。

114 : :02/05/07 16:32
 それから女の子にやさしくカムパネルラのとなりの席を指さしました。女の子は
すなおにそこへ座って、きちんと両手を組み合せました。
「ぼくおおねえさんのとこへ行くんだよう。」腰掛(こしか)けたばかりの男の子
は顔を変にして燈台看守の向うの席に座ったばかりの青年に云いました。青年は何
とも云えず悲しそうな顔をして、じっとその子の、ちぢれてぬれた頭を見ました。
女の子は、いきなり両手を顔にあててしくしく泣いてしまいました。

115 : :02/05/07 16:33
「お父さんやきくよねえさんはまだいろいろお仕事があるのです。けれどももうす
ぐあとからいらっしゃいます。それよりも、おっかさんはどんなに永く待っていらっ
しゃったでしょう。わたしの大事なタダシはいまどんな歌をうたっているだろう、
雪の降る朝にみんなと手をつないでぐるぐるにわとこのやぶをまわってあそんでい
るだろうかと考えたりほんとうに待って心配していらっしゃるんですから、早く行っ
ておっかさんにお目にかかりましょうね。」

116 : :02/05/07 16:33
「うん、だけど僕、船に乗らなけぁよかったなあ。」
「ええ、けれど、ごらんなさい、そら、どうです、あの立派な川、ね、あすこはあ
の夏中、ツインクル、ツインクル、リトル、スター をうたってやすむとき、いつ
も窓からぼんやり白く見えていたでしょう。あすこですよ。ね、きれいでしょう、
あんなに光っています。」

117 :おたく、名無しさん?:02/05/07 16:54
 泣いていた姉もハンケチで眼をふいて外を見ました。青年は教えるようにそっと
姉弟にまた云いました。
「わたしたちはもうなんにもかなしいことないのです。わたしたちはこんないいと
こを旅して、じき神さまのとこへ行きます。そこならもうほんとうに明るくて匂が
よくて立派な人たちでいっぱいです。そしてわたしたちの代りにボートへ乗れた人
たちは、きっとみんな助けられて、心配して待っているめいめいのお父さんやお母
さんや自分のお家へやら行くのです。さあ、もうじきですから元気を出しておもし
ろくうたって行きましょう。」青年は男の子のぬれたような黒い髪をなで、みんな
を慰(なぐさ)めながら、自分もだんだん顔いろがかがやいて来ました。

118 :おたく、名無しさん?:02/05/07 16:55
「あなた方はどちらからいらっしゃったのですか。どうなすったのですか。」さっ
きの燈台看守がやっと少しわかったように青年にたずねました。青年はかすかにわ
らいました。


119 :おたく、名無しさん?:02/05/07 16:55
「いえ、氷山にぶっつかって船が沈(しず)みましてね、わたしたちはこちらのお
父さんが急な用で二ヶ月前一足さきに本国へお帰りになったのであとから発(た)っ
たのです。私は大学へはいっていて、家庭教師にやとわれていたのです。ところが
ちょうど十二日目、今日か昨日(きのう)のあたりです、船が氷山にぶっつかって
一ぺんに傾(かたむ)きもう沈みかけました。月のあかりはどこかぼんやりありま
したが、霧(きり)が非常に深かったのです。ところがボートは左舷(さげん)の
方半分はもうだめになっていましたから、とてもみんなは乗り切らないのです。も
うそのうちにも船は沈みますし、私は必死となって、どうか小さな人たちを乗せて
下さいと叫(さけ)びました。近くの人たちはすぐみちを開いてそして子供たちの
ために祈(いの)って呉(く)れました。けれどもそこからボートまでのところに
はまだまだ小さな子どもたちや親たちやなんか居て、とても押(お)しのける勇気
がなかったのです。それでもわたくしはどうしてもこの方たちをお助けするのが私
の義務だと思いましたから前にいる子供らを押しのけようとしました。けれどもま
たそんなにして助けてあげるよりはこのまま神のお前にみんなで行く方がほんとう
にこの方たちの幸福だとも思いました。それからまたその神にそむく罪はわたくし
ひとりでしょってぜひとも助けてあげようと思いました。けれどもどうして見てい
るとそれができないのでした。子どもらばかりボートの中へはなしてやってお母さ
んが狂気(きょうき)のようにキスを送りお父さんがかなしいのをじっとこらえて
まっすぐに立っているなどとてももう腸(はらわた)もちぎれるようでした。その
うち船はもうずんずん沈みますから、私はもうすっかり覚悟(かくご)してこの人
たち二人を抱(だ)いて、浮(うか)べるだけは浮ぼうとかたまって船の沈むのを
待っていました。誰(たれ)が投げたかライフブイが一つ飛んで来ましたけれども
滑(すべ)ってずうっと向うへ行ってしまいました。私は一生けん命で甲板(かん
ぱん)の格子(こうし)になったとこをはなして、三人それにしっかりとりつきま
した。どこからともなく〔約二文字分空白〕番の声があがりました。たちまちみん
なはいろいろな国語で一ぺんにそれをうたいました。そのとき俄(にわ)かに大き
な音がして私たちは水に落ちもう渦(う ず)に入ったと思いながらしっかりこの人
たちをだいてそれからぼうっとしたと思ったらもうここへ来ていたのです。この方
たちのお母さんは一昨年没(な)くなられました。ええボートはきっと助かったに
ちがいありません、何せよほど熟練な水夫たちが漕(こ)いですばやく船からはな
れていましたから。」

120 :おたく、名無しさん?:02/05/07 16:56
 そこらから小さないのりの声が聞えジョバンニもカムパネルラもいままで忘れて
いたいろいろのことをぼんやり思い出して眼(め)が熱くなりました。
(ああ、その大きな海はパシフィックというのではなかったろうか。その氷山の流
れる北のはての海で、小さな船に乗って、風や凍(こお)りつく潮水や、烈(はげ)
しい寒さとたたかって、たれかが一生けんめいはたらいている。ぼくはそのひとに
ほんとうに気の毒でそしてすまないような気がする。ぼくはそのひとのさいわいの
ためにいったいどうしたらいいのだろう。)ジョバンニは首を垂れて、すっかりふ
さぎ込(こ)んでしまいました。

121 :おたく、名無しさん?:02/05/07 16:56
「なにがしあわせかわからないです。ほんとうにどんなつらいことでもそれがただ
しいみちを進む中でのできごとなら峠(とうげ)の上りも下りもみんなほんとうの
幸福に近づく一あしずつですから。」
 燈台守がなぐさめていました。
「ああそうです。ただいちばんのさいわいに至るためにいろいろのかなしみもみん
なおぼしめしです。」
 青年が祈るようにそう答えました。

122 : :02/05/07 17:22
 そしてあの姉弟(きょうだい)はもうつかれてめいめいぐったり席によりかかっ
て睡(ねむ)っていました。さっきのあのはだしだった足にはいつか白い柔(やわ)
らかな靴(くつ)をはいていたのです。

123 : :02/05/07 17:22
 ごとごとごとごと汽車はきらびやかな燐光(りんこう)の川の岸を進みました。
向うの方の窓を見ると、野原はまるで幻燈(げんとう)のようでした。百も千もの
大小さまざまの三角標、その大きなものの上には赤い点点をうった測量旗も見え、
野原のはてはそれらがいちめん、たくさんたくさん集ってぼおっと青白い霧のよう、
そこからかまたはもっと向うからかときどきさまざまの形のぼんやりした狼煙(の
ろし)のようなものが、かわるがわるきれいな桔梗(ききょう)いろのそらにうち
あげられるのでした。じつにそのすきとおった奇麗(きれい)な風は、ばらの匂
(におい)でいっぱいでした。

124 : :02/05/07 17:23
「いかがですか。こういう苹果(りんご)はおはじめてでしょう。」向うの席の燈
台看守がいつか黄金(きん)と紅でうつくしくいろどられた大きな苹果を落さない
ように両手で膝(ひざ)の上にかかえていました。
「おや、どっから来たのですか。立派ですねえ。ここらではこんな苹果ができるの
ですか。」青年はほんとうにびっくりしたらしく燈台看守の両手にかかえられた一
もりの苹果を眼を細くしたり首をまげたりしながらわれを忘れてながめていました。

125 : :02/05/07 17:23
「いや、まあおとり下さい。どうか、まあおとり下さい。」
 青年は一つとってジョバンニたちの方をちょっと見ました。
「さあ、向うの坊(ぼっ)ちゃんがた。いかがですか。おとり下さい。」
 ジョバンニは坊ちゃんといわれたのですこししゃくにさわってだまっていました
がカムパネルラは
「ありがとう、」と云いました。すると青年は自分でとって一つずつ二人に送って
よこしましたのでジョバンニも立ってありがとうと云いました。

126 : :02/05/07 17:24
 燈台看守はやっと両腕(りょううで)があいたのでこんどは自分で一つずつ睡っ
ている姉弟の膝にそっと置きました。
「どうもありがとう。どこでできるのですか。こんな立派な苹果は。」
 青年はつくづく見ながら云いました。
「この辺ではもちろん農業はいたしますけれども大ていひとりでにいいものができ
るような約束(やくそく)になって居(お)ります。農業だってそんなに骨は折れ
はしません。たいてい自分の望む種子(たね)さえ播(ま)けばひとりでにどんど
んできます。米だってパシフィック辺のように殻(から)もないし十倍も大きくて
匂もいいのです。けれどもあなたがたのいらっしゃる方なら農業はもうありません。
苹果だってお菓子だってかすが少しもありませんからみんなそのひとそのひとによっ
てちがったわずかのいいかおりになって毛あなからちらけてしまうのです。」

127 : :02/05/07 17:25
 にわかに男の子がぱっちり眼をあいて云いました。
「ああぼくいまお母さんの夢(ゆめ)をみていたよ。お母さんがね立派な戸棚(と
だな)や本のあるとこに居てね、ぼくの方を見て手をだしてにこにこにこにこわらっ
たよ。ぼくおっかさん。りんごをひろってきてあげましょうか云ったら眼がさめちゃっ
た。ああここさっきの汽車のなかだねえ。」
「その苹果(りんご)がそこにあります。このおじさんにいただいたのですよ。」
青年が云いました。
「ありがとうおじさん。おや、かおるねえさんまだねてるねえ、ぼくおこしてやろ
う。ねえさん。ごらん、りんごをもらったよ。おきてごらん。」  

128 : :02/05/07 17:38
 姉はわらって眼をさましまぶしそうに両手を眼にあててそれから苹果を見ました。
男の子はまるでパイを喰(た)べるようにもうそれを喰べていました、また折角
(せっかく)剥(む)いたそのきれいな皮も、くるくるコルク抜(ぬ)きのような
形になって床(ゆか)へ落ちるまでの間にはすうっと、灰いろに光って蒸発してし
まうのでした。
 二人はりんごを大切にポケットにしまいました。

129 : :02/05/07 17:38
 川下の向う岸に青く茂(しげ)った大きな林が見え、その枝(えだ)には熟して
まっ赤に光る円い実がいっぱい、その林のまん中に高い高い三角標が立って、森の
中からはオーケストラベルやジロフォンにまじって何とも云えずきれいな音いろが、
とけるように浸(し)みるように風につれて流れて来るのでした。

130 : :02/05/07 17:39
 青年はぞくっとしてからだをふるうようにしました。
 だまってその譜(ふ)を聞いていると、そこらにいちめん黄いろやうすい緑の明
るい野原か敷物かがひろがり、またまっ白な蝋(ろう)のような露(つゆ)が太陽
の面を擦(かす)めて行くように思われました。

131 : :02/05/07 17:39
「まあ、あの烏(からす)。」カムパネルラのとなりのかおると呼ばれた女の子が
叫びました。
「からすでない。みんなかささぎだ。」カムパネルラがまた何気なく叱(しか)る
ように叫びましたので、ジョバンニはまた思わず笑い、女の子はきまり悪そうにし
ました。まったく河原(かわら)の青じろいあかりの上に、黒い鳥がたくさんたく
さんいっぱいに列になってとまってじっと川の微光(びこう)を受けているのでし
た。
「かささぎですねえ、頭のうしろのとこに毛がぴんと延びてますから。」青年はと
りなすように云いました。

132 : :02/05/07 17:39
 向うの青い森の中の三角標はすっかり汽車の正面に来ました。そのとき汽車のず
うっとうしろの方からあの聞きなれた〔約二字分空白〕番の讃美歌(さんびか)の
ふしが聞えてきました。よほどの人数で合唱しているらしいのでした。青年はさっ
と顔いろが青ざめ、たって一ぺんそっちへ行きそうにしましたが思いかえしてまた
座(すわ)りました。かおる子はハンケチを顔にあててしまいました。ジョバンニ
まで何だか鼻が変になりました。けれどもいつともなく誰(たれ)ともなくその歌
は歌い出されだんだんはっきり強くなりました。思わずジョバンニもカムパネルラ
も一緒(いっしょ)にうたい出したのです。

133 : :02/05/07 17:40
 そして青い橄欖(かんらん)の森が見えない天の川の向うにさめざめと光りなが
らだんだんうしろの方へ行ってしまいそこから流れて来るあやしい楽器の音ももう
汽車のひびきや風の音にすり耗(へ)らされてずうっとかすかになりました。
「あ孔雀(くじゃく)が居るよ。」
「ええたくさん居たわ。」女の子がこたえました。

134 :おたく、名無しさん?:02/05/07 17:50
ヒトデ仮面参上!
うんこします、ブリッ
さよなら〜

135 : :02/05/07 19:11
 ジョバンニはその小さく小さくなっていまはもう一つの緑いろの貝ぼたんのよう
に見える森の上にさっさっと青じろく時々光ってその孔雀がはねをひろげたりとじ
たりする光の反射を見ました。
「そうだ、孔雀の声だってさっき聞えた。」カムパネルラがかおる子に云(い)い
ました。
「ええ、三十疋(ぴき)ぐらいはたしかに居たわ。ハープのように聞えたのはみん
な孔雀よ。」女の子が答えました。ジョバンニは俄(にわ)かに何とも云えずかな
しい気がして思わず
「カムパネルラ、ここからはねおりて遊んで行こうよ。」とこわい顔をして云おう
としたくらいでした。

136 : :02/05/07 19:11
 川は二つにわかれました。そのまっくらな島のまん中に高い高いやぐらが一つ組
まれてその上に一人の寛(ゆる)い服を着て赤い帽子(ぼうし)をかぶった男が立っ
ていました。そして両手に赤と青の旗をもってそらを見上げて信号しているのでし
た。ジョバンニが見ている間その人はしきりに赤い旗をふっていましたが俄かに赤
旗をおろしてうしろにかくすようにし青い旗を高く高くあげてまるでオーケストラ
の指揮者のように烈(はげ)しく振(ふ)りました。すると空中にざあっと雨のよ
うな音がして何かまっくらなものがいくかたまりもいくかたまりも鉄砲丸(てっぽ
うだま)のように川の向うの方へ飛んで行くのでした。ジョバンニは思わず窓から
からだを半分出してそっちを見あげました。美しい美しい桔梗(ききょう)いろの
がらんとした空の下を実に何万という小さな鳥どもが幾組(いくくみ)も幾組もめ
いめいせわしくせわしく鳴いて通って行くのでした。

137 : :02/05/07 19:12
「鳥が飛んで行くな。」ジョバンニが窓の外で云いました。
「どら、」カムパネルラもそらを見ました。そのときあのやぐらの上のゆるい服の
男は俄かに赤い旗をあげて狂気(きょうき)のようにふりうごかしました。すると
ぴたっと鳥の群は通らなくなりそれと同時にぴしゃぁんという潰(つぶ)れたよう
な音が川下の方で起ってそれからしばらくしいんとしました。と思ったらあの赤帽
の信号手がまた青い旗をふって叫(さけ)んでいたのです。
「いまこそわたれわたり鳥、いまこそわたれわたり鳥。」その声もはっきり聞えま
した。それといっしょにまた幾万という鳥の群がそらをまっすぐにかけたのです。
二人の顔を出しているまん中の窓からあの女の子が顔を出して美しい頬(ほほ)を
かがやかせながらそらを仰(あお)ぎました。

138 : :02/05/07 19:13
「まあ、この鳥、たくさんですわねえ、あらまあそらのきれいなこと。」女の子は
ジョバンニにはなしかけましたけれどもジョバンニは生意気ないやだいと思いなが
らだまって口をむすんでそらを見あげていました。女の子は小さくほっと息をして
だまって席へ戻(もど)りました。カムパネルラが気の毒そうに窓から顔を引っ込
(こ)めて地図を見ていました。

139 : :02/05/07 19:13
「あの人鳥へ教えてるんでしょうか。」女の子がそっとカムパネルラにたずねまし
た。
「わたり鳥へ信号してるんです。きっとどこからかのろしがあがるためでしょう。」
カムパネルラが少しおぼつかなそうに答えました。そして車の中はしぃんとなりま
した。ジョバンニはもう頭を引っ込めたかったのですけれども明るいとこへ顔を出
すのがつらかったのでだまってこらえてそのまま立って口笛(くちぶえ)を吹(ふ)
いていました。

140 : :02/05/07 19:13
(どうして僕(ぼく)はこんなにかなしいのだろう。僕はもっとこころもちをきれ
いに大きくもたなければいけない。あすこの岸のずうっと向うにまるでけむりのよ
うな小さな青い火が見える。あれはほんとうにしずかでつめたい。僕はあれをよく
見てこころもちをしずめるんだ。)ジョバンニは熱(ほて)って痛いあたまを両手
で押(おさ)えるようにしてそっちの方を見ました。(ああほんとうにどこまでも
どこまでも僕といっしょに行くひとはないだろうか。カムパネルラだってあんな女
の子とおもしろそうに談(はな)しているし僕はほんとうにつらいなあ。)ジョバ
ンニの眼はまた泪(なみだ)でいっぱいになり天の川もまるで遠くへ行ったように
ぼんやり白く見えるだけでした。

141 :おたく、名無しさん?:02/05/08 00:06
 そのとき汽車はだんだん川からはなれて崖の上を通るようになりました。 向こう岸
もまた黒いいろの崖が川の岸を下流に下るにしたがってだんだん高くなって行くのでした。
そしてちらっと大きなとうもろこしの木を見ました。 その葉はぐるぐるに縮れ葉の下
にはもう美しい緑色の大きな苞(ほう)が赤い毛を吐いて真珠のような実もちらっと見えた
のでした。 それはだんだん数を増して来てもういまは列のように崖と線路との間にならび
思わずジョバンニが窓から顔を引っ込めて向こう側の窓を見ましたときは美しいそらの
野原の地平線のはてまでその大きなとうもろこしの木がほとんどいちめんに植えられて
さやさや風にゆらぎその立派なちぢれた葉のさきからはまるでひるの間にいっぱい日光を
吸った金剛石のように露がいっぱいについて赤や緑やきらきら燃えて光っているのでした。

142 :おたく、名無しさん?:02/05/08 00:14
カムパネルラが「あれとうもろこしだねえ」とジョバンニにいいましたけれどもジョバンニは
どうしても気持ちがなおりませんでしたからただぶっきり棒に野原を見たまま「そうだろう」と
答えました。 そのとき汽車はだんだんしずかになっていくつかのシグナルとてんてつ器の灯(あかり)
を過ぎ小さな停車場にとまりました。
 その正面の青じろい時計はかっきり第二時を示しその振り子は風もなくなり汽車もうごかずしずかな
しずかな野原の中にカチッカチッと正しく時を刻んで行くのでした。
 そしてまったくその振り子の音のたえまを遠くの遠くの野原のはてから、かすかなかすかな旋律が
糸のように流れてくるのでした。 「新世界交響曲だわ」 姉がひとりごとのようにこっちを見ながら
そっといいました。 まったくもう車の中ではあの黒服の丈高い青年も誰もみんなやさしい夢を
見ているのでした。
 

143 : :02/05/08 17:47
(こんなしずかないいとこで僕はどうしてもっと愉快(ゆかい)になれないだろう。
どうしてこんなにひとりさびしいのだろう。けれどもカムパネルラなんかあんまり
ひどい、僕といっしょに汽車に乗っていながらまるであんな女の子とばかり談(は
な)しているんだもの。僕はほんとうにつらい。)ジョバンニはまた両手で顔を半
分かくすようにして向うの窓のそとを見つめていました。すきとおった硝子(ガラ
ス)のような笛が鳴って汽車はしずかに動き出し、カムパネルラもさびしそうに星
めぐりの口笛を吹きました。

144 : :02/05/08 17:48
「ええ、ええ、もうこの辺はひどい高原ですから。」うしろの方で誰(たれ)かと
しよりらしい人のいま眼(め)がさめたという風ではきはき談している声がしまし
た。
「とうもろこしだって棒で二尺も孔(あな)をあけておいてそこへ播(ま)かない
と生えないんです。」
「そうですか。川まではよほどありましょうかねえ、」
「ええええ河までは二千尺から六千尺あります。もうまるでひどい峡谷(きょうこ
く)になっているんです。」

145 : :02/05/08 17:48
 そうそうここはコロラドの高原じゃなかったろうか、ジョバンニは思わずそう思
いました。カムパネルラはまださびしそうにひとり口笛を吹き、女の子はまるで絹
で包んだ苹果(りんご)のような顔いろをしてジョバンニの見る方を見ているので
した。突然(とつぜん)とうもろこしがなくなって巨(おお)きな黒い野原がいっ
ぱいにひらけました。新世界交響楽はいよいよはっきり地平線のはてから湧(わ)
きそのまっ黒な野原のなかを一人のインデアンが白い鳥の羽根を頭につけたくさん
の石を腕(うで)と胸にかざり小さな弓に矢を番(つが)えて一目散(いちもくさ
ん)に汽車を追って来るのでした。
「あら、インデアンですよ。インデアンですよ。ごらんなさい。」

146 : :02/05/08 17:49
 黒服の青年も眼をさましました。ジョバンニもカムパネルラも立ちあがりました。
「走って来るわ、あら、走って来るわ。追いかけているんでしょう。」
「いいえ、汽車を追ってるんじゃないんですよ。猟(りょう)をするか踊(おど)
るかしてるんですよ。」青年はいまどこに居るか忘れたという風にポケットに手を
入れて立ちながら云いました。  まったくインデアンは半分は踊っているようで
した。第一かけるにしても足のふみようがもっと経済もとれ本気にもなれそうでし
た。にわかにくっきり白いその羽根は前の方へ倒(たお)れるようになりインデア
ンはぴたっと立ちどまってすばやく弓を空にひきました。そこから一羽の鶴(つる)
がふらふらと落ちて来てまた走り出したインデアンの大きくひろげた両手に落ちこ
みました。インデアンはうれしそうに立ってわらいました。そしてその鶴をもって
こっちを見ている影(かげ)ももうどんどん小さく遠くなり電しんばしらの碍子(が
いし)がきらっきらっと続いて二つばかり光ってまたとうもろこしの林になってし
まいました。こっち側の窓を見ますと汽車はほんとうに高い高い崖(がけ)の上を
走っていてその谷の底には川がやっぱり幅(はば)ひろく明るく流れていたのです。

147 : :02/05/08 17:49
「ええ、もうこの辺から下りです。何せこんどは一ぺんにあの水面までおりて行く
んですから容易じゃありません。この傾斜(けいしゃ)があるもんですから汽車は
決して向うからこっちへは来ないんです。そら、もうだんだん早くなったでしょう。」
さっきの老人らしい声が云いました。

148 : :02/05/08 17:49
 どんどんどんどん汽車は降りて行きました。崖のはじに鉄道がかかるときは川が
明るく下にのぞけたのです。ジョバンニはだんだんこころもちが明るくなって来ま
した。汽車が小さな小屋の前を通ってその前にしょんぼりひとりの子供が立ってこっ
ちを見ているときなどは思わずほうと叫びました。

149 :おたく、名無しさん?:02/05/08 17:51
ひいいひひひいひっひいいっひい

150 :150:02/05/08 17:52
百五十

151 : :02/05/14 16:14
 どんどんどんどん汽車は走って行きました。室中(へやじゅう)のひとたちは半
分うしろの方へ倒れるようになりながら腰掛(こしかけ)にしっかりしがみついて
いました。ジョバンニは思わずカムパネルラとわらいました。もうそして天の川は
汽車のすぐ横手をいままでよほど激(はげ)しく流れて来たらしくときどきちらち
ら光ってながれているのでした。うすあかい河原(かわら)なでしこの花があちこ
ち咲いていました。汽車はようやく落ち着いたようにゆっくりと走っていました。
 向うとこっちの岸に星のかたちとつるはしを書いた旗がたっていました。

152 : :02/05/14 16:15
「あれ何の旗だろうね。」ジョバンニがやっとものを云いました。
「さあ、わからないねえ、地図にもないんだもの。鉄の舟がおいてあるねえ。」
「ああ。」
「橋を架(か)けるとこじゃないんでしょうか。」女の子が云いました。
「あああれ工兵の旗だねえ。架橋(かきょう)演習をしてるんだ。けれど兵隊のか
たちが見えないねえ。」
 その時向う岸ちかくの少し下流の方で見えない天の川の水がぎらっと光って柱の
ように高くはねあがりどぉと烈(はげ)しい音がしました。
「発破(はっぱ)だよ、発破だよ。」カムパネルラはこおどりしました。

153 : :02/05/14 16:15
 その柱のようになった水は見えなくなり大きな鮭(さけ)や鱒(ます)がきらっ
きらっと白く腹を光らせて空中に抛(ほう)り出されて円い輪を描いてまた水に落
ちました。ジョバンニはもうはねあがりたいくらい気持が軽くなって云いました。
「空の工兵大隊だ。どうだ、鱒やなんかがまるでこんなになってはねあげられたね
え。僕こんな愉快な旅はしたことない。いいねえ。」
「あの鱒なら近くで見たらこれくらいあるねえ、たくさんさかな居るんだな、この
水の中に。」

154 : :02/05/14 16:16
「小さなお魚もいるんでしょうか。」女の子が談(はなし)につり込(こ)まれて
云いました。
「居るんでしょう。大きなのが居るんだから小さいのもいるんでしょう。けれど遠
くだからいま小さいの見えなかったねえ。」ジョバンニはもうすっかり機嫌(きげ
ん)が直って面白(おもしろ)そうにわらって女の子に答えました。

155 : :02/05/14 16:16
「あれきっと双子(ふたご)のお星さまのお宮だよ。」男の子がいきなり窓の外を
さして叫(さけ)びました。
 右手の低い丘(おか)の上に小さな水晶(すいしょう)ででもこさえたような二
つのお宮がならんで立っていました。
「双子のお星さまのお宮って何だい。」
「あたし前になんべんもお母さんから聴(き)いたわ。ちゃんと小さな水晶のお宮
で二つならんでいるからきっとそうだわ。」
「はなしてごらん。双子のお星さまが何したっての。」
「ぼくも知ってらい。双子のお星さまが野原へ遊びにでてからすと喧嘩(けんか)
したんだろう。」

156 : :02/05/14 16:16
「そうじゃないわよ。あのね、天の川の岸にね、おっかさんお話なすったわ、……」
「それから彗星(ほうきぼし)がギーギーフーギーギーフーて云って来たねえ。」
「いやだわたあちゃんそうじゃないわよ。それはべつの方だわ。」
「するとあすこにいま笛(ふえ)を吹(ふ)いて居るんだろうか。」
「いま海へ行ってらあ。」
「いけないわよ。もう海からあがっていらっしゃったのよ。」
「そうそう。ぼく知ってらあ、ぼくおはなししよう。」

157 :おたく、名無しさん?:02/05/14 17:03
 川の向う岸が俄(にわ)かに赤くなりました。楊(やなぎ)の木や何かもまっ黒
にすかし出され見えない天の川の波もときどきちらちら針のように赤く光りました。
まったく向う岸の野原に大きなまっ赤な火が燃されその黒いけむりは高く桔梗(き
きょう)いろのつめたそうな天をも焦(こ)がしそうでした。ルビーよりも赤くす
きとおりリチウムよりもうつくしく酔(よ)ったようになってその火は燃えている
のでした。

158 :おたく、名無しさん?:02/05/14 17:03
「あれは何の火だろう。あんな赤く光る火は何を燃やせばできるんだろう。」ジョ
バンニが云(い)いました。
「蝎(さそり)の火だな。」カムパネルラが又(また)地図と首っ引きして答えま
した。
「あら、蝎の火のことならあたし知ってるわ。」
「蝎の火ってなんだい。」ジョバンニがききました。
「蝎がやけて死んだのよ。その火がいまでも燃えてるってあたし何べんもお父さん
から聴いたわ。」
「蝎って、虫だろう。」
「ええ、蝎は虫よ。だけどいい虫だわ。」
「蝎いい虫じゃないよ。僕博物館でアルコールにつけてあるの見た。尾にこんなか
ぎがあってそれで螫(さ)されると死ぬって先生が云ったよ。」

159 : :02/05/14 17:03
「そうよ。だけどいい虫だわ、お父さん斯(こ)う云ったのよ。むかしのバルドラ
の野原に一ぴきの蝎がいて小さな虫やなんか殺してたべて生きていたんですって。
するとある日いたちに見附(みつ)かって食べられそうになったんですって。さそ
りは一生けん命遁(に)げて遁げたけどとうとういたちに押(おさ)えられそうに
なったわ、そのときいきなり前に井戸があってその中に落ちてしまったわ、もうど
うしてもあがられないでさそりは溺(おぼ)れはじめたのよ。そのときさそりは斯
う云ってお祈(いの)りしたというの、
 ああ、わたしはいままでいくつのものの命をとったかわからない、そしてその私
がこんどいたちにとられようとしたときはあんなに一生けん命にげた。それでもと
うとうこんなになってしまった。ああなんにもあてにならない。どうしてわたしは
わたしのからだをだまっていたちに呉(く)れてやらなかったろう。そしたらいた
ちも一日生きのびたろうに。どうか神さま。私の心をごらん下さい。こんなにむな
しく命をすてずどうかこの次にはまことのみんなの幸(さいわい)のために私のか
らだをおつかい下さい。って云ったというの。そしたらいつか蝎はじぶんのからだ
がまっ赤なうつくしい火になって燃えてよるのやみを照らしているのを見たって。
いまでも燃えてるってお父さん仰(おっしゃ)ったわ。ほんとうにあの火それだわ。」

160 : :02/05/14 17:04
「そうだ。見たまえ。そこらの三角標はちょうどさそりの形にならんでいるよ。」
 ジョバンニはまったくその大きな火の向うに三つの三角標がちょうどさそりの腕
(うで)のようにこっちに五つの三角標がさそりの尾やかぎのようにならんでいる
のを見ました。そしてほんとうにそのまっ赤なうつくしいさそりの火は音なくあか
るくあかるく燃えたのです。

161 : :02/05/14 17:05
 その火がだんだんうしろの方になるにつれてみんなは何とも云えずにぎやかなさ
まざまの楽の音(ね)や草花の匂(におい)のようなもの口笛や人々のざわざわ云
う声やらを聞きました。それはもうじきちかくに町か何かがあってそこにお祭でも
あるというような気がするのでした。
「ケンタウル露(つゆ)をふらせ。」いきなりいままで睡(ねむ)っていたジョバ
ンニのとなりの男の子が向うの窓を見ながら叫んでいました。

162 : :02/05/14 17:05
 ああそこにはクリスマストリイのようにまっ青な唐檜(とうひ)かもみの木がたっ
てその中にはたくさんのたくさんの豆電燈(まめでんとう)がまるで千の蛍(ほた
る)でも集ったようについていました。
「ああ、そうだ、今夜ケンタウル祭だねえ。」
「ああ、ここはケンタウルの村だよ。」カムパネルラがすぐ云いました。〔以下原
稿一枚?なし〕      

163 : :02/05/14 17:06
「ボール投げなら僕(ぼく)決してはずさない。」
 男の子が大威張(おおいば)りで云いました。
「もうじきサウザンクロスです。おりる支度(したく)をして下さい。」青年がみ
んなに云いました。
「僕も少し汽車へ乗ってるんだよ。」男の子が云いました。カムパネルラのとなり
の女の子はそわそわ立って支度をはじめましたけれどもやっぱりジョバンニたちと
わかれたくないようなようすでした。
「ここでおりなけぁいけないのです。」青年はきちっと口を結んで男の子を見おろ
しながら云いました。
「厭(いや)だい。僕もう少し汽車へ乗ってから行くんだい。」

164 : :02/05/14 17:06
 ジョバンニがこらえ兼ねて云いました。
「僕たちと一緒(いっしょ)に乗って行こう。僕たちどこまでだって行ける切符
(きっぷ)持ってるんだ。」
「だけどあたしたちもうここで降りなけぁいけないのよ。ここ天上へ行くとこなん
だから。」女の子がさびしそうに云いました。
「天上へなんか行かなくたっていいじゃないか。ぼくたちここで天上よりももっと
いいとこをこさえなけぁいけないって僕の先生が云ったよ。」
「だっておっ母さんも行ってらっしゃるしそれに神さまが仰(お)っしゃるんだわ。」

165 : :02/05/14 18:41
「そんな神さまうその神さまだい。」
「あなたの神さまうその神さまよ。」
「そうじゃないよ。」
「あなたの神さまってどんな神さまですか。」青年は笑いながら云いました。
「ぼくほんとうはよく知りません、けれどもそんなんでなしにほんとうのたった一
人の神さまです。」
「ほんとうの神さまはもちろんたった一人です。」
「ああ、そんなんでなしにたったひとりのほんとうのほんとうの神さまです。」

166 : :02/05/14 18:41
「だからそうじゃありませんか。わたくしはあなた方がいまにそのほんとうの神さ
まの前にわたくしたちとお会いになることを祈ります。」青年はつつましく両手を
組みました。女の子もちょうどその通りにしました。みんなほんとうに別れが惜
(お)しそうでその顔いろも少し青ざめて見えました。ジョバンニはあぶなく声を
あげて泣き出そうとしました。
「さあもう支度はいいんですか。じきサウザンクロスですから。」

167 : :02/05/14 18:42
 ああそのときでした。見えない天の川のずうっと川下に青や橙(だいだい)やも
うあらゆる光でちりばめられた十字架(じゅうじか)がまるで一本の木という風に
川の中から立ってかがやきその上には青じろい雲がまるい環(わ)になって後光の
ようにかかっているのでした。汽車の中がまるでざわざわしました。みんなあの北
の十字のときのようにまっすぐに立ってお祈りをはじめました。あっちにもこっち
にも子供が瓜(うり)に飛びついたときのようなよろこびの声や何とも云いような
い深いつつましいためいきの音ばかりきこえました。そしてだんだん十字架は窓の
正面になりあの苹果(りんご)の肉のような青じろい環の雲もゆるやかにゆるやか
に繞(めぐ)っているのが見えました。

168 : :02/05/14 18:42
「ハルレヤハルレヤ。」明るくたのしくみんなの声はひびきみんなはそのそらの遠
くからつめたいそらの遠くからすきとおった何とも云えずさわやかなラッパの声を
ききました。そしてたくさんのシグナルや電燈の灯(あかり)のなかを汽車はだん
だんゆるやかになりとうとう十字架のちょうどま向いに行ってすっかりとまりまし
た。

169 : :02/05/14 18:43
「さあ、下りるんですよ。」青年は男の子の手をひきだんだん向うの出口の方へ歩
き出しました。
「じゃさよなら。」女の子がふりかえって二人に云いました。
「さよなら。」ジョバンニはまるで泣き出したいのをこらえて怒(おこ)ったよう
にぶっきり棒に云いました。女の子はいかにもつらそうに眼(め)を大きくしても
一度こっちをふりかえってそれからあとはもうだまって出て行ってしまいました。
汽車の中はもう半分以上も空いてしまい俄(にわ)かにがらんとしてさびしくなり
風がいっぱいに吹(ふ)き込(こ)みました。    

170 : :02/05/14 18:44
 そして見ているとみんなはつつましく列を組んであの十字架の前の天の川のなぎ
さにひざまずいていました。そしてその見えない天の川の水をわたってひとりの神々
(こうごう)しい白いきものの人が手をのばしてこっちへ来るのを二人は見ました。
けれどもそのときはもう硝子(ガラス)の呼子(よびこ)は鳴らされ汽車はうごき
出しと思ううちに銀いろの霧(きり)が川下の方からすうっと流れて来てもうそっ
ちは何も見えなくなりました。ただたくさんのくるみの木が葉をさんさんと光らし
てその霧の中に立ち黄金(きん)の円光をもった電気栗鼠(りす)が可愛(かあい)
い顔をその中からちらちらのぞいているだけでした。


171 : :02/05/14 18:44
 そのときすうっと霧がはれかかりました。どこかへ行く街道らしく小さな電燈の
一列についた通りがありました。それはしばらく線路に沿って進んでいました。そ
して二人がそのあかしの前を通って行くときはその小さな豆いろの火はちょうど挨
拶(あいさつ)でもするようにぽかっと消え二人が過ぎて行くときまた点(つ)く
のでした。

172 : :02/05/14 18:45
 ふりかえって見るとさっきの十字架はすっかり小さくなってしまいほんとうにも
うそのまま胸にも吊(つる)されそうになり、さっきの女の子や青年たちがその前
の白い渚(なぎさ)にまだひざまずいているのかそれともどこか方角もわからない
その天上へ行ったのかぼんやりして見分けられませんでした。

173 : :02/05/14 18:46
 ジョバンニはああと深く息しました。
「カムパネルラ、また僕たち二人きりになったねえ、どこまでもどこまでも一緒に
行こう。僕はもうあのさそりのようにほんとうにみんなの幸(さいわい)のためな
らば僕のからだなんか百ぺん灼(や)いてもかまわない。」
「うん。僕だってそうだ。」カムパネルラの眼にはきれいな涙(なみだ)がうかん
でいました。

174 : :02/05/14 18:46
「けれどもほんとうのさいわいは一体何だろう。」ジョバンニが云いました。
「僕わからない。」カムパネルラがぼんやり云いました。
「僕たちしっかりやろうねえ。」ジョバンニが胸いっぱい新らしい力が湧(わ)く
ようにふうと息をしながら云いました。

175 : :02/05/14 18:48
「あ、あすこ石炭袋(ぶくろ)だよ。そらの孔(あな)だよ。」カムパネルラが少
しそっちを避(さ)けるようにしながら天の川のひととこを指さしました。ジョバ
ンニはそっちを見てまるでぎくっとしてしまいました。天の川の一とこに大きなまっ
くらな孔がどほんとあいているのです。その底がどれほど深いかその奥(おく)に
何があるかいくら眼をこすってのぞいてもなんにも見えずただ眼がしんしんと痛む
のでした。ジョバンニが云いました。

176 :おたく、名無しさん?:02/05/14 19:07
出ました、雲子が!

177 : :02/05/15 14:46
「僕もうあんな大きな暗(やみ)の中だってこわくない。きっとみんなのほんとう
のさいわいをさがしに行く。どこまでもどこまでも僕たち一緒に進んで行こう。」
「ああきっと行くよ。ああ、あすこの野原はなんてきれいだろう。みんな集ってる
ねえ。あすこがほんとうの天上なんだ。あっあすこにいるのぼくのお母さんだよ。」
カムパネルラは俄(にわ)かに窓の遠くに見えるきれいな野原を指して叫(さけ)
びました。

178 : :02/05/15 14:46
 ジョバンニもそっちを見ましたけれどもそこはぼんやり白くけむっているばかり
どうしてもカムパネルラが云ったように思われませんでした。何とも云えずさびし
い気がしてぼんやりそっちを見ていましたら向うの河岸に二本の電信ばしらが丁度
両方から腕(うで)を組んだように赤い腕木をつらねて立っていました。

179 : :02/05/15 14:46
「カムパネルラ、僕たち一緒に行こうねえ。」ジョバンニが斯(こ)う云いながら
ふりかえって見ましたらそのいままでカムパネルラの座(すわ)っていた席にもう
カムパネルラの形は見えずただ黒いびろうどばかりひかっていました。ジョバンニ
はまるで鉄砲丸(てっぽうだま)のように立ちあがりました。そして誰(たれ)に
も聞えないように窓の外へからだを乗り出して力いっぱいはげしく胸をうって叫び
それからもう咽喉(のど)いっぱい泣きだしました。もうそこらが一ぺんにまっく
らになったように思いました。

180 : :02/05/15 14:47



 ジョバンニは眼をひらきました。もとの丘(おか)の草の中につかれてねむって
いたのでした。胸は何だかおかしく熱(ほて)り頬(ほほ)にはつめたい涙がなが
れていました。

181 : :02/05/15 14:47
 ジョバンニはばねのようにはね起きました。町はすっかりさっきの通りに下でた
くさんの灯を綴(つづ)ってはいましたがその光はなんだかさっきよりは熱したと
いう風でした。そしてたったいま夢(ゆめ)であるいた天の川もやっぱりさっきの
通りに白くぼんやりかかりまっ黒な南の地平線の上では殊(こと)にけむったよう
になってその右には蠍座(さそりざ)の赤い星がうつくしくきらめき、そらぜんた
いの位置はそんなに変ってもいないようでした。

182 : :02/05/15 14:48
 ジョバンニは一さんに丘を走って下りました。まだ夕ごはんをたべないで待って
いるお母さんのことが胸いっぱいに思いだされたのです。どんどん黒い松(まつ)
の林の中を通ってそれからほの白い牧場の柵(さく)をまわってさっきの入口から
暗い牛舎の前へまた来ました。そこには誰かがいま帰ったらしくさっきなかった一
つの車が何かの樽(たる)を二つ乗っけて置いてありました。

183 : :02/05/16 08:57
「今晩は、」ジョバンニは叫びました。
「はい。」白い太いずぼんをはいた人がすぐ出て来て立ちました。
「何のご用ですか。」
「今日牛乳がぼくのところへ来なかったのですが」
「あ済みませんでした。」その人はすぐ奥へ行って一本の牛乳瓶(ぎゅうにゅうび
ん)をもって来てジョバンニに渡(わた)しながらまた云いました。
「ほんとうに、済みませんでした。今日はひるすぎうっかりしてこうしの柵をあけ
て置いたもんですから大将早速親牛のところへ行って半分ばかり呑(の)んでしま
いましてね……」その人はわらいました。
「そうですか。ではいただいて行きます。」
「ええ、どうも済みませんでした。」
「いいえ。」
 ジョバンニはまだ熱い乳の瓶を両方のてのひらで包むようにもって牧場の柵を出
ました。

184 : :02/05/16 08:58
 そしてしばらく木のある町を通って大通りへ出てまたしばらく行きますとみちは
十文字になってその右手の方、通りのはずれにさっきカムパネルラたちのあかりを
流しに行った川へかかった大きな橋のやぐらが夜のそらにぼんやり立っていました。

185 : :02/05/16 08:58
 ところがその十字になった町かどや店の前に女たちが七八人ぐらいずつ集って橋
の方を見ながら何かひそひそ談(はな)しているのです。それから橋の上にもいろ
いろなあかりがいっぱいなのでした。

186 : :02/05/16 08:59
 ジョバンニはなぜかさあっと胸が冷たくなったように思いました。そしていきな
り近くの人たちへ
「何かあったんですか。」と叫ぶようにききました。
「こどもが水へ落ちたんですよ。」一人が云いますとその人たちは一斉(いっせい)
にジョバンニの方を見ました。ジョバンニはまるで夢中で橋の方へ走りました。橋
の上は人でいっぱいで河が見えませんでした。白い服を着た巡査(じゅんさ)も出
ていました。

187 : :02/05/16 08:59
 ジョバンニは橋の袂(たもと)から飛ぶように下の広い河原へおりました。
 その河原の水際(みずぎわ)に沿ってたくさんのあかりがせわしくのぼったり下っ
たりしていました。向う岸の暗いどてにも火が七つ八つうごいていました。そのま
ん中をもう烏瓜(からすうり)のあかりもない川が、わずかに音をたてて灰いろに
しずかに流れていたのでした。

188 : :02/05/16 08:59
 河原のいちばん下流の方へ州(す)のようになって出たところに人の集りがくっ
きりまっ黒に立っていました。ジョバンニはどんどんそっちへ走りました。すると
ジョバンニはいきなりさっきカムパネルラといっしょだったマルソに会いました。
マルソがジョバンニに走り寄ってきました。

189 : :02/05/16 09:45
「ジョバンニ、カムパネルラが川へはいったよ。」
「どうして、いつ。」
「ザネリがね、舟の上から烏うりのあかりを水の流れる方へ押(お)してやろうと
したんだ。そのとき舟がゆれたもんだから水へ落っこったろう。するとカムパネル
ラがすぐ飛びこんだんだ。そしてザネリを舟の方へ押してよこした。ザネリはカト
ウにつかまった。けれどもあとカムパネルラが見えないんだ。」
「みんな探してるんだろう。」
「ああすぐみんな来た。カムパネルラのお父さんも来た。けれども見附(みつ)か
らないんだ。ザネリはうちへ連れられてった。」

190 : :02/05/16 09:45
 ジョバンニはみんなの居るそっちの方へ行きました。そこに学生たち町の人たち
に囲まれて青じろい尖(とが)ったあごをしたカムパネルラのお父さんが黒い服を
着てまっすぐに立って右手に持った時計をじっと見つめていたのです。

191 : :02/05/16 09:45
 みんなもじっと河を見ていました。誰(たれ)も一言も物を云う人もありません
でした。ジョバンニはわくわくわくわく足がふるえました。魚をとるときのアセチ
レンランプがたくさんせわしく行ったり来たりして黒い川の水はちらちら小さな波
をたてて流れているのが見えるのでした。

192 : :02/05/16 09:46
 下流の方は川はば一ぱい銀河が巨(おお)きく写ってまるで水のないそのままの
そらのように見えました。
 ジョバンニはそのカムパネルラはもうあの銀河のはずれにしかいないというよう
な気がしてしかたなかったのです。

193 : :02/05/16 09:46
 けれどもみんなはまだ、どこかの波の間から、
「ぼくずいぶん泳いだぞ。」と云いながらカムパネルラが出て来るか或(ある)い
はカムパネルラがどこかの人の知らない洲にでも着いて立っていて誰かの来るのを
待っているかというような気がして仕方ないらしいのでした。けれども俄(にわ)
かにカムパネルラのお父さんがきっぱり云いました。 
「もう駄目(だめ)です。落ちてから四十五分たちましたから。」

194 : :02/05/16 09:47
 ジョバンニは思わずかけよって博士の前に立って、ぼくはカムパネルラの行った
方を知っていますぼくはカムパネルラといっしょに歩いていたのですと云おうとし
ましたがもうのどがつまって何とも云えませんでした。すると博士はジョバンニが
挨拶(あいさつ)に来たとでも思ったものですか、しばらくしげしげジョバンニを
見ていましたが
「あなたはジョバンニさんでしたね。どうも今晩はありがとう。」と叮(てい)ね
いに云いました。

195 : :02/05/16 10:19
 ジョバンニは何も云えずにただおじぎをしました。
「あなたのお父さんはもう帰っていますか。」博士は堅(かた)く時計を握(にぎ)
ったまままたききました。
「いいえ。」ジョバンニはかすかに頭をふりました。
「どうしたのかなあ。ぼくには一昨日(おととい)大へん元気な便りがあったんだ
が。今日あたりもう着くころなんだが。船が遅(おく)れたんだな。ジョバンニさ
ん。あした放課後みなさんとうちへ遊びに来てくださいね。」
 そう云いながら博士はまた川下の銀河のいっぱいにうつった方へじっと眼を送り
ました。

196 : :02/05/16 10:19
 ジョバンニはもういろいろなことで胸がいっぱいでなんにも云えずに博士の前を
はなれて早くお母さんに牛乳を持って行ってお父さんの帰ることを知らせようと思
うともう一目散に河原を街の方へ走りました。

197 : :02/05/16 10:20
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵ 終 ∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴

198 :おたく、名無しさん?:02/05/16 10:33
保存しますた・・・

199 :おたく、名無しさん?:02/05/16 14:25
ほんとうは抱きしめて欲しかった…

200 :悪代官 ◆QQQQQ03I :02/05/16 21:01
俺もこの話好きだなぁ。
このスレは全部読んでないけど、なんか原稿欠落してるんじゃなかったっけ?
俺の思い違いかな……。

201 : ◆PIYOBZ06 :02/05/16 21:16
   ヘwヘ
√ (,,`Д´)  俺もスキー ジョバンニ 八ァ八ァ
.UU UU

202 : :02/05/16 22:05
>>200

欠落してます。>>162のところがそうです。

203 :おたく、名無しさん?:02/05/16 22:07
宮沢賢治の描いた絵で電信柱が歩いてるやつ。
あれ恐すぎ。

204 :おたく、名無しさん?:02/05/16 22:09
何げに良スレだったり。

205 :おたく、名無しさん?:02/05/17 01:07
なけるはなしきぼんぬ。

206 :はと麦茶:02/05/17 01:09
やなせたかしの描いた絵でアンパンが歩いてるやつ。
あれ恐すぎ。

207 :おたく、名無しさん?:02/05/17 01:12
アンパンマンが自分の顔をちぎって喰わせるやつ。
あれ恐すぎ。

208 :おたく、名無しさん?:02/05/17 17:01
類似スレキボンヌ

209 :おたく、名無しさん?:02/05/17 17:05
この人、エヴァ見て綾波に憧れてたかしらないけど、綾波ソックリに整形するってすごい。
エヴァ好きなら要チェック。↓整形板

http://life.2ch.net/test/read.cgi/seikei/1021620014/l50


210 :おたく、名無しさん?:02/05/21 15:40
>>209
だまされました。

211 :おたく、名無しさん?:02/05/22 10:59
         誰も言わなかった高島平のら猫安楽死騒動の真実
11年2月、
高島平でのら猫の面倒をみるBさんは、
のら猫達が暮らしている場所に、猫を虐殺する
人間がいる
ことに胸を痛め、危険な場所に猫
をさらしておくよりは、安楽死をし
たほうが良いと考えたが、BさんAさん達
とは全く逆の考えを持つ人、つまり、安楽死す
るよりは危険な場所にでも置いたほうが良いと考え
る人を説得出来なかったので、「のら猫を飼っ
てくれる人がいる」と嘘をついたら、カンパしてく
れる人がいたので、1万円を受け取り、3匹の猫
をその場所から連れ去り、Aさんへ安楽死をお願い
し、安楽死料金と埋葬費用の足しにしてくれれば良
いと思い、Aさんへ1万円を渡した。

212 :おたく、名無しさん?:02/05/27 11:32
良スレ啜れ

213 :悪代官 ◆QQQQQ03I :02/05/27 22:20
>>202
おお、説明ありがとう。

214 :おたく、名無しさん?:02/05/28 18:46
・・・名作はいつまでも色あせない・・・

宗教云々いわなくてもすごいお話だよなあ・・・
DVDほしいのう・・LDもってないし

215 :おたく、名無しさん?:02/05/29 19:57
>214

本、買えばいいです
宮沢賢治の童話は日本の誇るファンタジーでありますです、はい

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