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複雑な社会に大人はこき使われ

1 :名無しさん@1周年:2000/06/22(木) 00:52
てるんですか?

2 :名無しさん@1周年:2000/06/22(木) 00:53
むしろ、こっちが社会をこき下ろしてるぐらいだべ

3 :名無しさん@1周年:2000/06/22(木) 00:54
1=2

――――――――終了――――――――

4 :名無しさん@1周年:2000/06/22(木) 01:04
こき過ぎ注意

5 :名無しさん@1周年:2000/06/22(木) 06:04
素敵なスレをありがとう

6 :名無しさん@1周年:2000/11/01(水) 19:44
      

7 :名無しさん@1周年:2000/11/11(土) 22:13
下書き

8 :保田:2000/11/11(土) 22:14

 糞長い糞ったれミーティングがようやく終わった。約束の時間は既に三十分後に迫っている。時計代わりの携帯電話をバッグにしまいながら、愛車の待つ駐車場へ駆け足で向かう。
 裏口を抜けた瞬間、人影が目の前に立ち塞がった。
「……邪魔なんだけど」
 ニメートルほど間を置いた所に立つ影は、それでも動く気配が無かった。
「あら? なんだ、保田かぁ。あんたに用は無いよ」
 ふてぶてしく言い切るその顔に見覚えが有った。確か、ついさっき配られた危険人物リストに載っていたうちの一人だ。
「あんた、最近圭織をつけまわしてる奴じゃないの?」
 牽制の意味で問いかける。
「だったら?」
 薄暗がりの中でそいつの口元が微かに吊り上がるのが判った。なるほど、こいつは確かに危険だ。
 左手でジーンズの後ろポケットから煙草の箱を取り出す。
 底を右親指で弾くと二本、綺麗に揃った煙草が飛び出す。うち一本を口に咥える。一拍間を置いて、その手前で左右の掌を激しく打ち合わせると、しゅぼ、と篭った音と共に穂先に火が点いた。
「一本どう?」
 言うと同時に紫煙棚引くそれを、一直線に顔、それも目をめがけて右人差し指で弾き飛ばす。
 更に極力上体を前傾させながらそいつの足元にダッシュを仕掛ける。


9 ::2000/11/11(土) 22:16

 豪奢なシャンデリアが煌煌と照らす室内。そこは、机、椅子、本棚、絨毯、壁紙、等々、部屋を構成する全ての部品が赤を基調に統一されていた。その中央に据えられた籐椅子に、年の頃十歳を超えるか超えないかの少女が、後ろ手に縛られ座らされていた。
 しかし、整った顔立ちは無残な扱いに曇る事もなく、切れ長の目端に涙が滲む様子も無かった。軽く閉じられた口元からは、規則正しい寝息さえ漏れ出ている。
「辻ちゃんおはよう!」
 状況に相応しくない妙に明るい声と共に、椅子の正面にあたる扉が勢い良く開かれ、派手なガウンを羽織った痩せぎすの男が姿を現した。
「あぁぁ本物だよ。なんてかわいいらしいんだ」
 感極まったかのような、奇妙な抑揚をともなった叫び声が広い室内に響く。
「普段役立たずの使用人どもにしては最高の仕事ぶりだったな。ボーナスを奮発しないとね」
 椅子の前に膝をつき、男は荒い息のまま少女の膝に手を伸ばす。
「僕の天使……」
「触らないでいただけますか」
 じわじわと這い寄る手を、鋭い一撃が払い除ける。いつの間にか縛めは解かれ、少女の腕は自由を掴み取っていた。
「貴様ごとき汚らわしい輩の手で」
 男は自分の指が奇妙な方向に圧し折られているのを呆然と眺めていた。
「私に触れようなどと」
 その顔に体重の乗った蹴りが撃ち込まれる。顔にめり込んだ靴と肉の隙間に、どす黒い血が溢れ出る。
「二度と思わない事ですね」
 衝撃で後ろへ倒れ込む男に、更に延髄への重い一撃が加えられた。日頃陽の光をろくに浴びない脆弱な身体がそれに耐えられるはずも無く、男は跪いた姿勢のまま昏倒した。
「貴様は永遠に私の下僕。その財産も人脈も含めてね」
 扉の外が俄に騒がしくなった。異常を察した屋敷の使用人達が、この部屋に駆けつけようとしているのだろう。
「朝の運動には、少し足らないと思ってたんですよ」
 目を細めてうっそりと笑う少女は、その幼さに似つかわしくない凄絶な色気を匂わせていた。


10 :保田:2000/11/11(土) 22:16

 ストーカー野郎の両足を確保し、動きを止める。それほど困難な事ではないだろう。
 右肩から奴の足元に滑り込む。引き絞った右腕を細い足首に向けて突き出す。抱え込んで引き倒してやる。それから警備員に突き出してやろう。私はそこまでの成功を確信していた。
 唐突に視界から両足が消失した。飛んだ?!
 さっき放った煙草が路面に落ちていない。フェイントは失敗していたのだ。息をつく間も無く、右上方から鋭いプレッシャーが襲う。左手でアスファルトを突き、強引に上半身を左方に回避させる。
 ざく。尖ったヒールの踵が、脇腹すれすれの路面に突き刺さっていた。その足の持ち主が、左手で煙草をホールドし、私を見下ろしながら立っている。当然、ストーカー野郎だ。
 いや、野郎というのは相応しくないかもしれない。そこに立っているのは、二十台半ばの女だからだ。白いワンピースに揃いのロングスカート。それに白いハイヒール。お世辞にもセンスが良いとは言えないいでたちだ。黒いストレートの髪はかなり長く、圭織とタメ張るだろう。顔は美人の部類に入るのは間違いない。ただ、野暮ったい銀縁眼鏡が、顔の造作の良さを台無しにしていた。
 女の薄笑いを浮かべた白っぽい唇が開かれる。
「惜しいなぁ。折角、弛んだ腹の脂肪を吸い出してあげようと思ったのに」
 どこまでもふざけた奴だ。私は次の一撃が来ないのを確認しながら素早く立ち上がった。
 素人と踏んで見縊っていたが、本気でかからないと大怪我をするのはこっちだろう。それにしても、あの細い足にどれだけの力が秘められているのか。
 息を整え、手元に残ったもう一本の煙草に火を点ける。奴は相変わらず左手に煙草を持ったままだ。
「まぁ一服しなよ。折角の私からのプレゼントなんだぜ?」
 軽い挑発を浴びせる。その言葉を受けた奴の目は、侮蔑の色に染まっていた。
「あんたにお似合いの安煙草だね。吸えたもんじゃぁない」
 女が無造作に左手のものを路面に落とす。フィルター部が地上に達したのが戦闘再開の合図になった。
 

11 :保田:2000/11/11(土) 22:17

 取りあえず、オーソドックスなファイティングポーズを取る。相手の出方を見るしかない。一発の蹴りだけでは、実力など分ろう筈もないからだ。
「そう言えば名前を聞いてなかったね。言いたくなければ別にいいけど」
 私の発した問いに応じてか、女のかけた銀縁が月光を反射してぎらりと光る。
「宮司」
 その瞬間、宮司と名乗った女から発せられる殺気が急激に増幅した。
 女が偽名であれ本名であれ、名乗った事自体が意外だった。
(後ろ暗いところを持つ者が、本来、隠すべき名を名乗る)
 だらり、と無気力に垂れ下げられていた宮司の両腕が、じりじりと持ち上げられる。
(つまり)
 完全に腕が上体に対して垂直に上げられた。両肩から手先までが直線を形作る。
(奴は私を殺す気でいる)
 我流の格闘術でも身に付けているのか。その構えは異常としか言い様が無かった。
(覚悟を決めろってことか……)
 私の決意を他所に、先に宮司が動いた。最初に踏み出した足が辛うじて左と分るほどに、その動きは俊敏だった。一気に間合いを詰めてくる。
「ふ」
 宮司の口から圧縮された空気が吐かれる。そのまま両腕が顔面めがけて打ち込まれて来るのを、上体を地面に叩きつける勢いで沈めて回避する。だが、それでも間に合わず、数本の髪が持っていかれた。
 背にしていた大型車のサイドウインドウが二枚連続して粉砕される音が聞こえた。かなりの大技を放ったに違いない。大技の後に必然的に出来る隙にカウンターを打ち込むべく、その場で右足を踏み込み、渾身のアッパーを宮司の顎に向けて放った。


12 :    :2000/11/11(土) 22:18

 ここに一人の男が居た。
 彼の名を仮にAとしよう。彼は掲示板に無関係な文章を連続して貼り付ける、所謂コピペ荒らしという類の人種だ。
 インターネットへのアクセスは、彼が通う大学の研究室の端末を使用している。常時接続環境、しかも大容量回線を思う存分使える。彼のような愉快犯には願っても無い環境を手にしていた。
 貼り付ける文章の吟味など必要無い。ただ、自分が気に食わないスレッドに自分でさえ不快感を覚える文章を自分の手で貼り付けるだけだ。その用途に特化したツールも有る。
 今夜のターゲットを、ブラウザのリロードを繰り返しながら捜す。
「有った」
 獲物を見つけたAの目が猛禽類さながらに光る。PCの前で両手指をわきわきと言わせる、彼流の準備運動らしき物を繰り返す。
「厨房どもが…思い知るがいい…モー板の王は俺だ……」
 遂に用意が整ったのだろう。Aがマウスに手を伸ばし、今正に駄文を貼り付けんとしたその時だった。
 どこからとも無く、静かで、それでいて、感傷的な響きを持つ調べが聞こえてきた。
『タイースの瞑想曲』
 深夜の研究室に他人が紛れ込んで、今まで気が付かない筈が無い。誰かがセットしたアラーム代わりのMP3が鳴っているのか? Aは額に汗を浮かべながら、先ほどまでの高揚感などとうに吹き飛んでしまった頭に考えを巡らせた。


13 :    :2000/11/11(土) 22:18

 突然、室内の照明が全て消された。更にモニターが、ぶん、という音とともに待機状態に入った。真っ暗な画面に、OSDメニューだけが明滅している。省電力設定でスリープへの移行を、無操作が一時間連続した場合、とセットしたのを昨日の事のように覚えているAにとっては、先ほどから起こっている奇妙な現象の一つにしか思えなかった。
 暗いモニターに映る自分の顔。その右脇に白い人影が映っていた。
「誰だ?!」
 Aは、椅子の上部を回してそちらに向き直ったが、勢いをつけ過ぎた為、キャスターが前方に滑り出してしまった。転倒を避けるために慌てて両肘を机の上につく。
「君のような名前も付かない登場人物に名乗る名なんて無いよA君」
 呆然とした面持ちのA。その前に在る闇に、上半身だけの人影がぼーっと浮かび上がる。その容貌は判然としないが、発せられたのは若い女の声だった。Aが状況を把握する間も無く、容赦無い言葉が続く。
「狼 彼の処遇について意見は?」
 その問いに、低い男性的な響きの声が応える。
「思想を伴わない荒らし行為に対しては、厳正なる処分が妥当」
「残2さ 君はどうだ?」
 もう一つ、冷厳な印象の女の声が応える。
「仮に処罰を受け一時的に更正したとしても再犯の可能性が高い。結論としては極刑」
「そうかそうか。二人ともありがとう」
 闇の中、白い影が、他の二人の出した結論に満足そうに頷くのが朧気に見てとれた。判決が下される。
「ではA君、きみに永遠に醒めない夢を見せてあげよう」


14 :使者:2000/11/12(日) 18:53

 排気口部にサイレンサーを装備した特殊仕様型ヘリ、アエロスパシアル・パンサーが、夜の東京上空を静かに前進していた。つや消しブラックにコーティングされたその機体は、余程注意深い人間でないと、地上から視認することは不可能だろう。
 防弾処理されたウインドシールドはスモークがかけられ、乗組員の姿を完全に隠していた。乾いたローター音だけが響くキャビンには、黒いスーツに身を固めた男が大仰なヘッドセットを嵌めて座っていた。対座する男は、それとは対照的な白いスーツに痩身を包み、軽く両手を組み合わせ、その膝の上に置いていた。ヘリが上昇して以来続いていた沈黙は、場の空気をどうしようもなく重くしていた。二人のお互いの腹を探り合うような視線が空中で何度も衝突する。
 やがて、黒スーツの男が口を開いた。
「西村、私をこんな場所に呼び出した訳を、そろそろ知りたいのだが」
 どことなく残響音を含むような重々しげな声だ。
 西村と呼ばれた男が、特徴的な分厚い下唇をおもむろに開く。
「全てをご承知の上で、私の不躾な招待に応じて頂いたと思っていたのですが……」
 人を小馬鹿にしていると取れなくも無い、非常に軽い感じの声だ。
 しかし、その語尾を打ち消すように、冷徹な声が被される。
「何でもかんでも相手が察してくれる、といった勘違いは即刻止めて欲しいものだな。年末進行で俺も本業の方が忙しい。さっさと事情説明を始めてくれ。事務的にな」
 

15 :関西:2000/11/13(月) 11:37

 「……大変やな加護」
 「……中澤さんこそ」
 「うちらは一山幾らのワゴンセール品とちゃうねんで……」
 「声を大にして言いたいですよね。そこらへんを」
 「―――が無いからってこんな扱いはないで……」
 「中澤さん、語尾が湿っぽいですよ。粘着質っぽいですよ」
 「ほっとけ!」
 「はぁ……」
 「若いくせに溜息つくな」
 「はぁ……」
 「……ハァ」


16 :ぐじ:2000/11/13(月) 14:24

”完全に宮司の顎を捉えた“
 保田はそう確信した。しかし、その拳は、宮司の顎にヒットする寸前で止められていた。
「涼しい風をどうも」
 宮司が嘲りの笑みを見せる。保田の右腕は、宮司の左腕によって拘束されていた。ぎっちりと絡めとられた腕は、少々の力では解けそうに無かった。右腕を引き抜こうともがく保田を嘲笑うかのように、更に宮司の腕にパワーが投入され、骨が悲鳴を上げる。
 保田が、まだ自由な左腕で反撃を試みる。痛みに顔を顰めながら、宮司の空いた腹に向かってボディーブローを放つ。
 夜の駐車場に、骨と骨のぶつかり合う鈍い音が響く。保田の打撃は、即座に持ち上げられた宮司の右膝でブロックされていた。
 確かに保田は、片腕を捕られた不自然な姿勢での攻撃を強いられた。通常の攻撃とは違い、その勢いは殺されていただろう。それでも、至近距離からの打撃を難なくガード出来る宮司の反応速度には、目を見張る物があった。
 だが、保田は、この宮司のブロックを予期していた。僅かに左拳を引き寄せると、毒蛇の頭を思わせる形に指を曲げ、宮司の脹脛を一気に掴んだ。
 腿肉へ鋭い爪が侵入する感覚に、宮司が絶叫する。


17 :保田:2000/11/14(火) 12:07
腿肉へ→肉に

 激痛に耐えかねた宮司の左腕の力が弱まる。保田は、空かさず右腕を引き抜くと素早く後退し、宮司との間合いを取った。
 掌を一度、二度、開いて閉じる。
”まだ行ける“
 思ったほど右腕にダメージを受けていない事に、保田は安堵していた。一方の宮司は、保田の爪で傷ついた右足を浮かせ気味にしており、その顔から先程までの余裕の笑みは失せていた。
”奴の叫び声は、守衛室まで届いただろう。その内、ガードマンが駆けつけて来る“
”それまでにカタを着ける“
”圭織の為にも……こいつは“
 保田がダッシュした。一歩目からフル・パワー・スプリントで宮司に向かって突進する。
”今、ここで、潰す……!!“
 迎え撃つ宮司が、左ハイ・キックを保田の頭部めがけて放つ。だが、傷ついた右足を軸にした為、宮司の持つポテンシャルを遥かに下回る速度でしかない。しかも保田は、その直前に前傾姿勢に移っており、宮司の蹴りはその上空を虚しく通過するだけだった。
 保田は蹴りを回避したのを確認すると、両手を地面につき、宮司の右足にロー・キックを叩き込んだ。
 

18 :吉澤:2000/11/16(木) 11:13

 その部屋は、白に支配されていた。
 Z医大付属病院。
 超高層ビルが建ち並ぶS区ビジネス・パークの一角に、その建造物は出現していた。
 三十四階建てという、病院としては異例の高層建築。
 その最上階、関係者の中でも選ばれた者にしかその存在を知らされていないVIPルーム。
 そこで石川梨華と吉澤ひとみの両名は、仰々しい医療器具に囲まれていた。但し、一人は体中にチューブを通された状態で病床に就き、もう一人はその手を神に祈るように組み合わせている、と大きく境遇を違えていたが。
 数日前、石川が仕事中に原因不明の病に倒れ、急遽この場所に運ばれた事を知る者は殆どいない。石川の前線からの離脱と同時に、モーニング娘。本体も休止状態に入っていたからだ。
 石川一人欠けた状態でも、本体の活動は十分可能な筈だ。現に、過去にも、飯田、後藤、それに吉澤が個人的理由で一時的に休養を取った時でも、出演番組自体は休む事無く続けられていた。それが何故、未だ主要と言えるまでの存在に成長していないメンバー一人のリタイアを理由に、前例が覆されてしまったのか。吉澤はこの疑問を、グループのリーダーである中澤に率直にぶつけた。
 しかし、その問いに対する中澤の答えは、
「今は未だ、明確な事は言えない。ただ、これだけは言える」
「うちらは、何か、大きなトラブルに巻き込まれた」
 という、吉澤の疑問を解消するどころか、更に混迷の渦に叩き込むものであった。


19 :吉澤:2000/11/16(木) 13:53

「う……ん」
 石川が呻き声をあげる。元気な頃は端整だった顔も今では無惨なまでにやつれ果て、受ける苦しみの度合いを表すかのように、そのこめかみには多くの血管が浮き出ていた。
「よっすぃー……ど…こ……どこにいるの……」
 何かを求めるように、石川の手が僅かにベッドから浮き、指が宙を掻く。その手を吉澤が、両の手で優しく包み込む。すると安心したのか、微かな笑みを浮かべ、石川は再び寝息を立て始めた。
”梨華……“
”なんにもしてあげられない“
”ただ、こうやって、付き添ってあげる事しか、わたしには出来ない……“
 石川が意識不明の重態に陥ったとき、吉澤は付き添いを自主的に申し出た。
 あれから家には殆ど帰っていない。こうなってみると、石川に付きっきりで居られる状況を許す、娘。本体の休止がありがたく思えて来た。中澤に言った言葉に偽りは無い。モーニング娘。にとっての石川と、自分にとっての石川、その違いを客観的に見た上で吐いた台詞だった。
 意識が無いまでも、石川は触れている自分を知覚してくれる。その事を嬉しく思う一方で、何の医療知識も持たず、ただ医者の言うままの介助しか出来ない自分の無力さを、吉澤はもどかしく感じるのだった。


20 :疾走:2000/11/17(金) 12:30

 街を流れる一つの噂が有った。
 それは決して既存のメディアに乗らない噂で、掴める場所に居る者は容易に掴めるが、そうでない者は永遠にそれを知る機会を得られない。そんな類の噂だった。
 多くの者は友人知人間の口コミで、ある者は携帯メールでそれを知った。街ですれ違った人が偶然、それを耳にして知った例も有った。
 その噂はあまりにも漠然としており、また、伝言ゲームの常で、人から人へと伝わる毎に劣化し、或いは不純物の含まれる度合いを上げていった。
 しかし、その噂を統計立てて収集する者があれば、一つの共通するキー・ワードが存在する事を知っただろう。
『cham』
 チャムと発音されるその言葉は麻薬のような中毒性を持つのか、どことなくエキゾチックな香りを含んだ語感の虜となり、繰り返し口にする者も多くいたという。

 新世紀の訪れに対する高揚感が人ごみに充満する2000年師走。
 大阪ミナミの雑踏にその男は居た。


21 :疾走:2000/11/17(金) 13:44

 その男を端的に表現するなら、「髭眼鏡の男」だった。トレードマークの髭をイメージチェンジのつもりで剃ったのが約一ヶ月前。だが、髭は既に元の長さにまで生え揃っており、三ヶ月ぶりに対面する知人達にとっては全く意味を持たない行為となっていた。

 男は迷っていた。
 ネット上で知り合った奴等とオフ・ラインでミーティングをする、所謂OFF会。男が普段利用している2ちゃんねるという巨大掲示板。その中のモーニング娘。を扱う板、通称モー板。今日はその関西OFFの開催日だった。本来なら、なんの躊躇いも無く集合場所の心斎橋の某ゲーム・センターへ直行していただろう。だが、今回は違った。
 関西で開かれるOFF会は今回で三回目となる。第一回・第二回と参加している髭にとって、OFFに来る者達は既に気心の知れた奴等ばかりだった。流石に、そこで聞ける事、話せる事、に対する期待感は初回に比べて薄れてはいたが、心を熱くさせるイベントであることは間違いない。それでも迷っていた。
”全ての原因は……あの言葉だ……“
”cham“
 魅惑的な香りが、髭の脳を支配していた。そして、その香りの吸引力は圧倒的だった。
”cham……“
 抗いがたい誘惑に、脳髄が痺れ、頭蓋の中で反響する言葉が官能の色を帯びる。髭の股間が、ずきんと疼いた。
 最早、約束事を反故にするのに何の躊躇いも無かった。髭は踵を返すと、噂が導く場所へと足を向け走り出した。


22 :突入:2000/11/17(金) 15:35

 人通りの絶えた閑静な住宅街を、一台の大型バンが超低速で走っていた。黒いボディー、そして、全てのウインドウに黒のフィルムが貼られていた。
 やがて黒いバンは、一軒の家の前に、玄関を塞ぐ形で停車した。
 その後部ドアが開き、五人の男達が吐き出される。いずれの男も、黒のコンバット・スーツに身を固め、片手にM-16アサルト・ライフルを保持していた。指揮官らしき男が無言のまま、身振りで部下達に突入の指示を出す。男達が様々な方向から邸内に侵入する。ある者は硝子を切り裂き、ある者はベランダの開け放たれたドアから、そして裏口から、足音を殺して入りこむ。なんとも無用心なことに、玄関ドアは施錠されていなかった。
 屋内の照明は全て消されていた。午後七時。通常では就寝するには早過ぎる時間だ。
 指揮官の男が聞かされたターゲットの生活リズムは非常に不規則で、一般人との比較は意味をなさないとされていた。そのまま、ターゲットの自室である二階の部屋を目指す。
 少女漫画雑誌の付録らしき「じゃましないでね(はあと)」と書かれたドア・ノブの警告札を引き千切りながら、目的の部屋に男達が突入する。


23 :突入:2000/11/17(金) 15:35

「西村博之、我々に同行して貰おうか!」
 指揮官の男の鋭い声が冷えた空気の室内に響く。しかし、その声に対する反応は皆無だった。事前のブリーフィングで知らされた状況に反して、ターゲットの部屋はもぬけの殻だった。五人の男達の間に、当惑した空気が流れる。
”馬鹿な……我々がしくじったと言うのか?“
 部屋の床には布団がだらしなく敷かれ、その周囲には様々な雑誌が散乱しており、正に足の踏み場も無い状態だった。やがて男は、部屋が微かな光で明滅しているのに気付いた。
 机の上に無造作に放置されたノート・パソコン。そのXGA液晶ディスプレイの中央に、控えめな大きさの文字が表示されていた。
「移転ですです。。。。」
”なんだこいつは?“
 指揮官の男の頭を疑問が錯綜した。
「なんすかこりゃぁ? ヤサを移したって事ですかね?」
「我々の襲撃をターゲットが予測していたと言うのか?!」
 部下達が、勝手な推理を互いに披露しているのが聞こえる。


24 :突入:2000/11/17(金) 15:35

”何かがおかしい“
 男の兵士として戦場で培った生命の危機を察知する鋭敏な感覚、そして、人間がかつて野生動物であった頃から少しずつ失っていった生存本能が、危険信号を発していた。施錠されていない玄関。開放されたベランダ。無人の部屋に放置されたノートPC。全てがちぐはぐな印象を放っていた。
”なんだって言うんだ、この違和感は……“
 その時、男の研ぎ澄まされた聴覚が、万年床の枕元に置かれたキティーちゃん目覚し時計とは違うリズムを捉えた。悪寒が男の背を舐め上げる。桁外れの危機が迫る感覚に顎が戦慄いた。
「逃げろぉぉーーー!!」
 男は叫びながら、閉じられた硝子窓に向かって全力でダッシュした。その叫びに、遅れて部下たちも続く。
 両腕をクロスして硝子を突き破る男の背後で光が炸裂した。


25 :西村:2000/11/17(金) 15:36

「なんだ?! 今の光は?!」
 ヘリの進行方向に見える住宅街の一角が、一瞬、眩い光を上げたのが見てとれた。
 驚く黒スーツの男を見て、西村が薄く笑った。
「あれは、ゲスト歓迎のクラッカーみたいなモノですよ」
 意味不明な返し方をする西村に、黒スーツが苛立ちも露わに問いかける。
「しかし……お前の家が有る方角では無かったか?!」
「そのとおりです。我が家に侵入者があったようですね……。でもご心配なく。私の家族は既に場所を移してましたから……」
「侵入者? 物騒な話だ。しかし……」
”クラッカーとは何の比喩なんだ? まさか……“
 黒スーツの男の疑問を他所に、西村が続ける。
「位高ければ保守高きを要すると言いますからねぇ……」
 アエロスパシアル・パンサーの操縦士と副操縦士が爆笑した。お約束という奴に従ったのだろう。
 毒気を抜かれた黒スーツの男は、憮然とした表情のまま、ヘリの規則正しい揺れに身を任せるしかなかった。


26 :保田:2000/11/18(土) 13:07

 宮司と名乗る女の右足首に、保田の地を這うような蹴りがクリーン・ヒットした。宮司の体が大きく傾ぐ。休まず、保田が連続してローを放つ。宮司の体が衝撃で浮き、唯一の支えであった右足が地面を離れた。
 前のめりに倒れる宮司に、保田が更なる追い討ちを仕掛ける。両腕の力だけで、倒れて手をついている宮司の背に向かって跳躍する。攻撃を察知した宮司が、必死に両手両足で地を掻き、保田の着地点からの離脱を試みる。だが、保田宮司の回避行動は間に合わず、重い保田の両膝を背骨で受け止める事になってしまった。
「ゲハッ!!」
 押し潰された宮司が吐血する。黒々とした血飛沫が、放射状に撒き散らされる。

 この交戦を少し離れた場所で、車の中から観察する者達が居た。
「そろそろ限界ね。小ぺそを回収しなさい」
「かしこまりました」
 二人を乗せたセルシオが、交戦地点に向けて静かに走り出した。


27 :保田:2000/11/18(土) 14:34
 だが、保田宮司の→だが、宮司の

 宮司を拘束しようと歩み寄る保田の耳が、接近して来る車のエンジン音を捉えた。
”一般人か?! 騒がれると面倒な事になる……“
 緊張感を漲らせる保田の視界に、所狭しと駐車されている車の間を縫って、ダーク・グレーのセルシオが登場する。路面に僅かに浮いたアスファルトを潰す音と共に、セルシオは倒れている宮司スレスレに停車した。
 運転席のドアが静かに開き、紺のスーツ姿の男が姿を現した。無駄の無い動きで、倒れている宮司の所まで移動する。男は保田に背を向けたまま、宮司の身体を抱え上げ、セルシオの助手席に運び込んだ。
 完全に存在を無視された形の保田が叫ぶ。
「あんた一体何者なんだ?! いきなり現れて勝手してんじゃないよ! もしかして、そいつの飼い主か?!」
 だが、男は何の反応も示さず、再び運転席のドアに手をかけた。
「ちょっと待ちなよ! ストーカーだからって誘拐していいって手は無いんだぜ」
 再びの呼びかけに、初めて男が反応した。ゆっくりと保田の方に顔を向ける。
 男の極めて抑制された眼差しが保田の目を射た。保田が思わずたじろぐ。
”こいつからは、敵意が感じられない……いや、敵とさえ思われてないってことか?“


28 :矢口:2000/11/20(月) 14:14

 涙が水溜りのようだ――
 小さな体の何処に、これだけの涙が貯められてたんだろう――
 矢口真里が泣いていた。両こぶしをテーブルに置き、白い壁に貼られた絵を見据えながら、ただ、ひたすらに泣いていた。悲しみに肩を震わせてなどいない。もって行き場のない怒りに身を任せているわけでも、どうしようもない悔しさに涙を流しているわけでもない。
 それは、これからの矢口にとって、絶対に必要な儀式。

 後藤真希は、目の前で静かに、透き通った涙の粒がはたはたとテーブルを叩くのを、夢の中の出来事であるかのように見守っていた。


29 :矢口:2000/11/22(水) 03:05

「や……」
”やぐっつぁん“
 と、言いかけて後藤は言葉を飲み込んだ。もうその呼び方ではいけない気がしたのだ。
 目の前に座る矢口を見ているとつくづく思う。矢口は本当に変わった。いや、元の矢口に返ったと言うべきなのかもしれない。
 浅黒く、化粧に守られていた肌は、透き通るような白さを取り戻したが、矢口本人は全く化粧っ気の無い今の状態を微塵も不安には感じていないようだ。
 数時間前に聞いた矢口の言葉を、真希は頭の中で何度も繰り返していた。
”これからはもう泣けないから“
”涙は今のうちに全部流しておく“
 決意の涙を流す度に、矢口の小柄な体に気力が充実していくのが、手にとるようにわかる。
「今の真里ってさ、天使みたいだよ。なんだかかみがみしい」
「あはは、それを言うなら『こうごうしい』だよ、ごっちん。それに誉め過ぎ。でもありがとうね」
 にっこりと矢口が笑いかける。それを受け止めた後藤は、自分の頬が少し熱くなるのを感じていた。
”まぶしい笑顔ってこういうのを言うんだ“
 矢口真里は生来の可憐さを存分に発揮し、穏やかに笑い、そして白く輝いていた。


30 :映画:2000/11/22(水) 11:07

 幾つもの裏路地を抜け、終に辿り着いた場所は――

 髭が所属している秘密サークル「壱護摩会」そのメーリング・リストで入手した情報を元に、モー板で密かにsageで進行している噂系スレッドを見つけ出したのが一週間前。そこで得た情報に、キタの「クラブ・照美」でママに聞き出した話を総合すれば、場所はここで間違っていない筈。髭は、そう確信していた。
 サヤ・シネマ
 肩の震えが止まらないほどの期待感と共に、髭は目の前にある厚い扉を開いた。瞬間、大音量の喧騒が耳を聾する。表向きには閉鎖された事になっている筈の映画館に、立ち見が出るほどの人間が集っていた。
「俺以外にもあほが仰山いたって事か」
 髭は自嘲気味に呟いた。
 やがて、サイレンとともに幕が上がった。
 突如鳴り出した 『老人と子供のポルカ』をBGMに、金色のど派手なタキシード姿の女が袖から優雅に歩きながら現れた。髭はその女の横顔に見覚えが有った。懸命に記憶を弄る。
”あれは……“
 女が正面に向き直った。
”み、水物ぉ?!“


31 :映画:2000/11/22(水) 11:08

「会場の皆さんコンバンワー」
「コンバンワー」
 女は、客の反応の良さにほくそ笑むと、更に続けた。
「ふ……随分と沢山釣れたなぁ、この、ちゃむヲタどもがーーーっ!!」
「オマエモナー!!」
「やっぱりですか……」
「そうですねー!!」
「チャム、髪切った? 略して」
「零式萌えー」
 髭の顎が、かくんと落ちた。
”なんなんだ、この頭の腐りそうな応酬は?! こっちはOFF蹴って来てるんだ。とっとと見せるもの見せやがれ!!“
 自分だけは冷静であると信じて疑わなかった髭も、既に主催者側の術中に嵌りつつあった。呆れながらも、会場で繰り広げられる茶番劇から目が離せないでいる。
 舞台上では水物が、パラパラらしき怪しげな踊りを披露し始めていた。
「みんなもチャムれーーーっ!!」
”慶応大出の才媛も形無しだな……。もういいからチャム出せよ。寒いんだよ“
 苛立ちの余り蹴飛ばした椅子の足が、予想以上に大きな音を立てた。


32 :保田:2000/11/25(土) 04:00

 宮司が回収されたセルシオを中心に、保田と紺スーツの男は対峙していた。
 男が全くの自然体で立っているに対して、保田は首を落とし気味にし、両手を構えた臨戦体勢で挑んでいる。宮司との交戦でかいた汗は既に引いた。しかし、保田の額には徐々にではあるが、再び緊張の汗が滲み始めていた。
 男は精神戦において、確実に保田を圧倒していた。先の宮司を回収した時の身のこなしだけで、実戦においても男の優位は揺らがないであろうと推測できる。
 男は仕掛ける意思が無く、一方の保田は突破口を見出せないという状態が十分ほど続いた。その時、
「圭ちゃん? なにやってるの?!」
 悲鳴にも似た高い声が場の均衡を破った。思わず保田が男から視線を外すと、飯田圭織が息を切らしながら駐車場の入り口に立っているのが見えた。
「圭織?!」
 飯田は、時間になってもなかなか現れない保田を心配して、約束の場所から戻って来てしまったのだった。
”最悪のタイミングだ…“
 保田は思わず天を仰いだ。


33 :中澤:2000/12/01(金) 00:29

”なんや……。なんで誰も助けに来ーへんの“
”普通、こんな美女が窮地に陥ってたら、助けに来るやろ? 誰かが“
 片手で押さえきれない左肩からの出血が、中澤裕子の白いセーターを汚していた。
 正体不明の襲撃者は、ただ無言で中澤の前に立ち塞がり、唯一の退路を絶っていた。
「つーか、あんた誰? 何が目的なん?」
 しかし、男は何も答えない。
 ひたすらに無言。
「そーか、そーか。答える気ないんか。そーか」
”本気で殺るきやな…けどな、こっちもただでは死なへんで……。相撃ちや。意地でも大ダメージ負わせたる“


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